早期審査を利用すると6ヶ月で取得できる可能性がありますよ!
今回は特許取得の期間を大幅に短縮する方法について紹介しましょう。以前、特許出願の手順について詳しく解説しました。
質問者 特許出願ってすごく難しそうですよね。 誰でも出願できるものですか? 酒谷弁理士 そうですね。特許出願自体は誰でもできますよ。 ただ、簡単かと言われると、簡単ではないかもしれませんね。 […]
その中で「早期審査」と「スーパー早期審査」というものがあることを紹介しましたが、今回はそれらがどのような審査方法なのかを詳しく解説していきたいと思います。
特許取得に時間が掛かる場合のデメリット
特許権は、登録してから初めて効力を発揮します。ですから、ライフサイクルが短い技術分野では、特許出願をしてから特許が取得できるまでの期間はなるべく短い方が良い場合があります。
なぜなら、特許出願中に、その特許発明が模倣される可能性があるからです。もし、特許出願中にその技術を模倣されてしまった場合、差止請求や損害賠償請求などの権利行使ができません。これは大きなデメリットと言えます。
特許出願の手順にも示しているように、特許出願しても審査請求をしなければ審査が開始されることはありません。しかも、通常は約1年もの審査期間が必要なので、順調に特許を取得できたとしても1年以上掛かることになります。
近年、技術の進歩は非常に早いということはあなたもご存知でしょう。その中でも著しくライフサイクルが短い分野がIT系です。そのようなライフサイクルが短い分野において、特許取得に長い期間が必要ということではすぐに新しい技術も陳腐化してしまいます。
ライフサイクルが短い技術分野において、特許取得に時間が掛かる場合のデメリットとして、以下のようなことが挙げられます。
- 特許を用いて他社の参入を阻む
- 模倣を防ぐ
早期審査とスーパー早期審査
特許の審査期間を短縮する制度として、次の2つの制度が設けられました。
- 早期審査
- スーパー早期審査
では、それぞれについて詳しく解説していきましょう。
早期審査!6つの出願対象
早期審査の対象になる出願は以下の通りです。
- 実施関連出願
- 外国関連出願
- 中小企業、個人、大学、公的研究機関等の出願
- グリーン関連出願
- 震災復興支援関連出願
- アジア拠点化推進法関連出願
なお、「実施関連出願」については次の2種類の出願となります。
- 既に実施している出願
- 2 年以内に実施予定の出願
早期審査の平均審査期間は、申請から一次審査の結果が出るまで3 か月以下(2017 年実績)です。
スーパー早期審査!1ヶ月以内に審査終了?
スーパー早期審査に掛かる期間は申請から一次審査の結果が出るまで1か月以内となっています。これは、早期審査の約2倍の速度です。
下の表は平成29年の実績を表していますが、一次審査結果まで約0.7 か月、最終処分まで約2.5 か月となっていることがわかります。
早期審査 | スーパー早期審査 | |
一次審査まで | 約2.3か月 | 約0.7か月 |
最終処分まで | 約5.3か月 | 約2.5か月 |
但し、2019 年3 月時点では、スーパー早期審査制度では手続をオンライン手続きに限定しているので注意が必要です。例えば審査請求書の形式的な不備などの軽微な方式指令等を受けただけでも、スーパー早期審査の申請が無効になってしまいます。
対象:出願審査請求がなされている(審査請求手続とスーパー早期審査申請の手続は同時でも可能)審査着手前の出願であって、
- 「実施関連出願」かつ「外国関連出願」であること、又はベンチャー企業による出願であって、「実施関連出願」であること
- スーパー早期審査の申請前4 週間以降のすべての手続をオンライン手続とする出願であること
の両方の要件を満たす特許出願です。
また、平成30 年7 月9 日よりベンチャー企業による出願であって実施関連出願であるものも対象に含まれるようになりました。これにより、2 年以内に実施するベンチャー企業の発明が、スーパー早期審査の対象になりました。
スーパー早期審査の場合、拒絶理由通知に対する応答期間が通常の半分の30日。この期間を過ぎてしまうと、通常の早期審査になってしまうので注意してください。
ところで、早期審査には多くのメリットがありますが、実はデメリットもあります。次の章で早期審査のメリットとデメリットについて考えてみましょう。
「審査請求」と「早期審査」を出願と同時にするメリットとデメリット
審査請求と早期審査・スーパー早期審査出願を同時に行う場合のメリットとデメリットについて解説しましょう。
「審査請求」と「早期審査」を出願と同時にする6つのメリット
審査請求と早期審査を出願と同時に行った場合のメリットとして考えられるのは、主に次の6つです。
- 3 か月〜1年(平均5.3 か月)で特許権を取得可能
- 特許取得できない場合には出願内容を公開されないようにできる
- 他社に対して特許権をすぐに主張したい場合に有効
- 投資家に対して特許権をアピールして資金調達に活かしたい場合に有効
- 他社による情報提供による権利化妨害がない
- 外国出願をする価値がある発明か否かを判断する材料になる
審査請求と早期審査を出願と同時にすれば、3 か月〜1年(平均5.3 か月)で特許権を取得可能。しかし、全てが特許権を取得できるとは限りません。
ですから、特許にならなそうな場合には、出願自体を優先日から1年4 か月以内に取り下げることによって、出願内容を公開されないようにすることができます。自社の技術内容を秘匿化して他社にもれないようにするということは、非常に大きなメリットでしょう。
また他社の参入を特許ですぐに牽制したい場合や他社から警告を受けているような場合のクロスライセンス交渉に持ち込むための特許権取得などの場合にも非常に有効です。
更に、資金調達という面を考慮すると、投資家に対して特許権をアピールすることができるというのも大きなメリットでしょう。
また、出願と同時に早期審査を申請した場合、他社による情報提供による権利化妨害がありません。審査期間も限定されていることもあり、早期審査を申請した場合は特許になりやすい傾向にあります。
では、外国出願をする場合についてはどうでしょうか。早期審査を申請した場合、1年以内に特許可能か否かの判断が出ます。ですから、その結果によって外国出願をする価値がある発明か否かを判断することが可能です。
なお、日本で特許になると、外国でPPHを使用して早期審査を請求することができます。よって、外国における特許権の権利化を若干早めることができます。
「審査請求」と「早期審査」を出願と同時にするデメリット
「審査請求」と「早期審査」を出願と同時に行った場合のデメリットは出願内容の公開時期が通常より早まってしまうという点にあります。
出願の内容が公開される時期は、通常は、出願から1年半後です。しかし、早期審査で1年以内に特許が登録された場合、通常よりも早く情報が公開されてしまいます。
しかし、場合によっては自社の出願内容が公開される時期を遅らせたいということもあります。そのような場合には審査請求と早期審査を出願と同時に行うことをおすすめしません。
なお、自社の特許公報が発行された場合、その技術が先行技術となります。ですから、後から出願した技術が進歩性という点で問題になる可能性もあります。