ということで本日は、アカデミアにおける特許出願の考え方について説明していきましょう。
大学における特許出願の考え方
確かに、技術的なシンプルな構成の方が、適用性が高い場合が多いので、特許出願するのに好ましいケースが多いです。
アカデミアで最初に出願する場合、「技術的なベース(=基盤)となる技術(発明)」について特許出願することが多いと思われます。ここで「技術的なベース(=基盤)となる技術(発明)」は、例えば、京都大学の山中先生が発明した「4つの遺伝子導入でiPS細胞を生成する方法」があります。
技術の実装までの期間は研究分野や技術内容に依存します。例えば製薬分野だと、臨床試験を経て薬事承認を受けるまで10年程度かかるので、10年後の販売を目指して特許権を取得していきます。
一方で、特許権の有効期間は出願から20年間であることに鑑みると今後20年後以降に実用化される技術については特許権取得にそぐわないので、大学発の発明については短期間(例えば今後3~10年)で実装される技術でより実現可能性が高い技術を優先して特許出願するのがお勧めです。
’既存技術がない画期的な発明’や’実用化する上で必ず使う発明’は、権利範囲を広く設計して、後追いで少し変更を加えた他社実施品も権利範囲に収まるように権利範囲を設計しましょう。
また例えば同じ量子コンピュータ分野でも、5年後に実装できる技術もありますし、10年後でないと実装できない技術もあります。
10年後というと一般的に技術のベースやトレンドが変わっている可能性があるので実現可能性としては低いです。
一方、5年後というと実現可能性は10年後よりも高いと思われます。
同じコストをかけるのならば、実現可能性が高いものを優先して特許出願した方がよいと思われますが、短期間で実装される技術の方が実現可能性が高いと思われるので、迷われるようであれば短期間で実装される技術の方を優先して特許出願をした方がよいと思われます。
特許の権利範囲の取り方の考え方
はい、基本的にその考え方でよいと思われます。
注意点として特許の権利範囲の取り方については発明の内容によって変わると思われますので、以下ケース毎に説明します。
(1)先行文献がない画期的な発明(例えば、「4つの遺伝子導入でiPS細胞を生成する方法」、「CrisperCas9」など)のケース
なるべく権利範囲が広く権利化できた方が、自社実施品だけでなく、少し変更を加えた他社実施品も権利範囲に含められるのでよいと思われます。
このような発明については、アイデア段階から相談して頂けると、必要な追加実験を指摘したり変形例をいろいろ考えたりすることによって、広い権利範囲を取りにいくことを考えていくのがよいと思われます。
(2)規格標準技術または医薬品の発明のケース
一方、規格標準技術(例えば無線通信の規格の技術など)の発明については、標準化技術は他社も実施せざるを得なので、権利範囲が狭くてもライセンス料は払わざるをえませんので、権利範囲が狭くてもよいです。
また医薬品の有効成分の発明については、権利範囲が狭くても後発薬の参入はブロックすることができますので、権利範囲が狭くてもよいです。
(3)実装する上で必須の発明のケース
実装する上で必須の発明については特許を取得できれば、牽制力の高い特許として(例えば同業他社へのカウンター特許として)利用できる可能性があります。
実装する上で必須の発明については、他社が少し改良しても権利範囲に収まるように、予め変形例を考えて、権利範囲をうまく設計していくことが大事になってきます。
この点については、(1)の画期的な発明と同様に、アイデア段階から相談して頂けると、必要な追加実験を指摘したり変形例をいろいろ考えたりすることによって、広い権利範囲を取りにいくことを考えていくのがよいと思われます。