新しく開発した技術ということで、やっぱり特許出願するべきなのでしょうか?
実は特許出願した方が良い場合もありますが、出願しない方が良い場合もあるからです。
今回は新しく開発した技術を「特許出願した方が良い技術」と「特許出願しない方が良い技術」について、詳しく解説します。
出願公開制度とは!出願した全ての技術は公開される?
特許制度というのは、特許権を国が付与して発明を一定期間排他的・独占的に守るための制度です。そして、新しい技術を発明した代償であるとも言えるでしょう。
実は、新しく開発した技術として公開されるのは、特許登録された技術だけではありません。特許登録される前の全ての特許出願されたものが特許公開公報に掲載されることになります。これは特許法64条で決められており、特許出願から1年半後に公開されるものです。
もちろん、特許登録された発明については、特許庁の特許公報によってすべての内容が公開されることになります。
(優先日:先に出願した別の出願に対して優先権を主張している出願の場合にはその先に出願した別の出願の日、優先権を主張していない場合には現実の出願日。)
なお、特許出願をしても公開されない場合もあります。それは、特許出願後、優先日から1年4 か月以内に出願を取り下げた場合です。
出願した日とは別でしょうか?
実は、特許出願を公開しないようにすることで秘匿化することも可能です。どういう場合でしょうか。
特許出願の秘匿化が可能
特許出願を公開しないように秘匿化する手順としては次の通りです。
- 出願と同時に審査請求をする
- 早期審査またはスーパー早期審査を請求
- 審査結果を早期に(1 〜3 か月で)得る
- 特許権を取得できなそうであれば、その特許出願自体を優先日から1年4か月以内に取り下げる
では次に特許出願を控えた方が良い技術について紹介しましょう。
特許出願を控える方がよい技術
前述した通り、特許出願すると全ての内容が1年半後に公開されることになります。つまり、競合他社にその発明の内容が知られてしまうということです。これは大きなデメリットとも言えます。
もし、競合他社がリバースエンジニアリングによって技術を解析しようとしていたら、公開された特許情報は競合他社にとって非常に有益な情報となります。ですから、その技術が通常の解析方法ではわからないような場合には特許出願しない方が良いでしょう。
例として、わかりやすいのは製品の製造方法に特徴がある場合。製品自体はリバースエンジニアリングによって解析することができる場合でも、製品の製造工程については解析することは難しいからです。
ですから、そのような場合には特許出願書類に製造方法を記載しないという選択肢があるでしょう。しかし、逆の場合もあります。
容易に想像ができる製造方法は特許出願がおすすめ!
製造工程については秘密にしておいた方が良いということですね!
但し、一見して製造方法が予想できる場合にはそうではありません。
前述した通り、競合他社が解析しても製造工程がわからないという場合は特許出願しない方が良いでしょう。しかし、その製品を見ることで製造工程がわかるような場合には特許出願するのがおすすめです。
その場合、製品の構成と共に製造方法についても特許出願を検討しましょう。ただし、特許出願書類の記載には詳しい作り方や製造時の詳しいパラメータは記載しないのがポイントです。
製造方法が容易に分かるような場合は、競合他社に真似されるだけでなく先に特許出願されるという可能性も考えられます。また、自社出願の公開前であっても、自社出願が公開されれば競合他社が特許を取ることはできません。(特許法29 条の2 )
論文や技術報告書での公表はおすすめできない!
競合他社の特許取得を阻むという観点からは、論文や技術報告書などで公表するということも可能です。しかし、これらの方法は競合他社による自社技術への追従が早期に実現される可能性があるのでおすすめできません。
不正競争防止法上の「営業秘密」としての管理
前述した通り、製品を見ただけでは製造方法までは分からないような場合は特許出願しない方が良いということになります。その場合、不正競争防止法上の営業秘密として社内で厳重に管理するのが良いでしょう。
不正競争防止法第2 条6項によると、不正競争防止法上の営業秘密に該当するには以下の3 つの要件を満たす必要があると決められています。
- 有用な営業上または技術上の情報であること(有用性)
- 公然と知られていないこと(非公知性)
- 秘密として管理されていること(秘密管理性)
ここで、有用という言葉がでてきました。では、有用性という点について詳しく解説しましょう。有用性を満たすには、次のどちらかの条件が必要です。ただし、現実に利用されていなくても問題ありません。
- 当該情報自体が客観的に事業活動に利用されている
- 利用されることによって経費の節約、経営効率の改善等に役立つもの
- 有用性を満たす例
- 設計図、製法、製造ノウハウ
- 顧客名簿、仕入先リスト
- 販売マニュアル
- 有用性を満たさない例
有害物質の垂れ流し、脱税等の反社会的な活動についての情報
これらの情報は、法が保護すべき正当な事業活動ではないため、有用性があるとはいえません。
また、非公知性を満たすためには、保有者の管理下以外では一般に入手できないことが必要になります。第三者が偶然同じ情報を開発して保有していた場合でも、当該第三者もその情報を秘密として管理していれば、非公知性を満たします。
例を挙げて考えてみましょう。
- 非公知性を満たさない例
- 刊行物等に記載された情報
- 特許として公開された情報
秘密管理性を満たすためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が、次の条件を満たす必要があります。
- 秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示される
- 当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される
一般的には、新しく開発した技術であれば、多くの場合、有用性は満たされ、非公知性は満たされます。
そして、新しく開発した技術内容を営業秘密として管理する際には重要なことがあります。それは、先使用による通常実施権(以下先使用権という、特許法79 条)を主張できるような資料を残しておくこと。将来、競合他社がその技術内容について特許権を取得した場合に重要な役割を果たします。