新規開発のビジネスオペレーションも特許で保護できるのでしょうか?
「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する場合・・・ですが。
新しく開発したビジネスオペレーションが、特定の物品又は機器を、課題を解決するための技術的手段とし、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する場合、特許で保護できる可能性があります。
例を挙げて詳しく見ていきましょう。
ビジネスオペレーションは特許の保護対象?
ビジネスオペレーションは特許になるんですよね・・・
その理由を説明しましょう。
特許庁の審査基準では、特許法上の「発明」に該当しないものの類型の1つとして「自然法則を利用していないもの」が挙げられています。具体的には、請求項に係る発明が以下の①から⑤までのいずれかに該当する場合です。
- 自然法則以外の法則(例:経済法則)
- 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
- 数学上の公式
- 人間の精神活動
- 上記①から④までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)
上記の発明は、自然法則を利用したものとは言えません。ですから、ビジネスを行う方法自体は、特許法上の発明に該当せず、特許を受けることはできません。
ポイントは自然法則を利用したかどうかというところですね!
ビジネスオペレーションに関係する審査基準では、以下のように決められています。
発明特定事項に自然法則を利用している部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していないと判断される場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用していないものとなる。
逆に、発明特定事項に自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断される場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用したものとなる。どのような場合に、全体として自然法則を利用したものとなるかは、技術の特性を考慮して判断される。
つまり、ビジネスオペレーションに係る発明の一部に自然法則を利用していない部分があったとしても、発明が全体として自然法則を利用していると判断される場合には、特許の保護対象となる発明に該当します。
いきなりステーキ事件!特許取り消しの取り消し!?
ビジネスオペレーションに関しては単純な問題ではないということですね。もう少し具体的な例はありませんか?
では、ここから「いきなりステーキ事件」を例にわかりやすく説明していきましょう。
※いきなりステーキ事件:平成29 年(行ケ)第10232 号特許取消決定取消請求事件
「いきなりステーキ」を運営する株式会社ペッパーフードサービスは、名称を「ステーキの提供システム」とする発明につき、特許設定登録を受けた(特許第5946491号。以下,「本件特許」といいます)。
この特許について特許異議申立てが特許庁にされたのに対し、特許庁はペッパーフードサービスによる特許請求の範囲の訂正を認めました。しかし、特許法上の発明に該当しないとして特許を取り消す決定をしました。
いきなりステーキ事件は、この特許取消決定の取り消しを求める(すなわち特許権の維持を求める)訴訟で、特許取消決定が覆り、本件特許発明の発明該当性が認められたものです。
訂正後の本件特許の請求項1に係る発明の特許請求の範囲の記載は,次のとおりです。
● 1 本件特許発明1
便宜上、分説して示します。以下、付された符号に従って「構成要件A」のようにいいます。
A お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、
B 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、C 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、D 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、
E 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、
F 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、
G ステーキの提供システム。
このように構成要件A は、ステーキを提供するステップについて規定しており、構成要件B 〜F は、物に係る構成を規定しています。
また、本件特許の図面には、お客様を案内したテーブル番号が記載された札として下記の図1のHに例示されていました(図1)。
また、お客様の要望に応じて肉をカットすることについては図2 に例示されていました(図2)。
更に、計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールについては、下記の図3 のS に例示されていました(図3)。
2 裁判所の判断は「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当!
裁判所は、本件ステーキ提供方法の実施に係る構成(構成要件A)は、「ステーキの提供システム」として実質的な技術的手段を提供するものであるということはできないと判断しました。その一方で、裁判所は、次のように判断しました。
本件特許発明1の技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと,本件特許発明1は,「札」,「計量機」及び「シール(印し)」という特定の物品又は機器(本件計量機等)を,他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができると判断しました。
更に裁判所は、「札」,「計量機」及び「シール(印し)」は,単一の物を構成するものではないものの,いずれも,他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義を有するものであって,物の本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎないとか,人為的な取決めにおいてこれらの物を単に道具として用いることが特定されているにすぎないということはできないと判断しました。
特許の保護対象!場合によってはビジネスオペレーションも!
この裁判例を前提にすれば、特定の物品又は機器を、課題を解決するための技術的手段とするものとしています。ですから、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる場合には、特許の保護対象となる発明に該当しえます。
よって、この裁判例を前提にすれば、小売り等のビジネスオペレーションに係る発明であっても、特定の物品又は機器を、課題を解決するための技術的手段とし、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる場合には、特許の保護対象となりえます。