今回は他社との引き合いがあったとき、知財面でどのようなことに注意しなければならないかということについて詳しく解説したいと思います。
他社からの引き合い
展示会やプレスリリースで新しい製品を発表した場合など、今までに取り引きの無かった会社からの引き合いの話がでるかもしれません。そして、その引き合いの話があった時に、良い取り引きにするには特許を取得していることが大きなメリットとなります。
中には、特許を取得しているということが取引を始める際の最低ラインと捉えている会社もあります。引き合いの話を成功させるか否かはその製品が知財面で保護されることが非常に重要です。
なぜなら、特許を取得することによって自社技術の新規性及び独自性を客観的に証明することができるとともに、引き合い先に対して自社から購入しないと特許侵害のリスクがあることを印象付け、自社製品を購買する動機付けが働くからです。
また、引き合いから商談へと話しが進むと、工場見学や試作品の提供を相手企業から求められる場合があります。
しかし、工場見学や試作品の提供ということになると、様々なリスクが考えられるので出来る限り早い段階で対応策を検討する必要があるでしょう。例えば工場見学一つを考えてみても、技術者にとっては多くの企業秘密を入手するチャンスです。
ですから、どのようなリスクが考えられるか、そしてリスクを回避する方法について十分検討しておく必要があります。
他社からの引き合い時のリスク回避方法
では、他社からの引き合い時にはどのようなリスクが想定できるでしょうか。想定されるリスクについての対策方法を表1にまとめたので参照してください。
対応の概要 | 具体的な対策 |
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秘密保持契約(NDA)の締結 | 工場見学や試作品、図面等の提供依頼に対し、事前に秘密保持契約(NDA)を締結してから、提供する。 |
公開・非公開範囲の設定 |
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工場見学ルールの整備 |
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では、秘密保持契約はどのような内容を書けば良いのでしょうか?
秘密保持契約書で入れておきたい条項
他社からの引き合い時には秘密保持契約を締結する必要があります。しかし、秘密保持契約の内容が曖昧であったり、お互いにとって不利益があるようなものでは、締結後に問題が発生する可能性も低くありません。
特に、自社が情報を開示する側である場合には尚更です。では、他社との秘密保持契約では、どのような条項を入れておくべきでしょうか。
表2に秘密保持契約書で入れておきたい条項を記載しました。
条項内容 | 秘密情報秘密保持義務の対象となる秘密情報を規定する条項 |
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秘密保持義務の具体的内容 | 第三者に開示・漏えいしない義務を規定し、「営業秘密」については、秘密として厳重に管理する義務を規定する条項(上記義務の例外についてはなるべく設けない方が望ましい) |
秘密保持期間(契約期間) | 秘密保持期間を規定する条項 |
残存条項 | 契約終了後に義務が秘密保持義務が残存する期間を定める条項(秘密保持義務を負う期間は、契約期間+残存条項による期間となる) |
契約の解除 | どのような場合に契約を解除できるかを定める条項 |
準拠法 | 紛争時の準拠法を定める条項(外国企業と契約する際には極めて重要) |
裁判管轄 | 紛争時の裁判管轄を定める条項(本社所在地や顧問弁護士がいる地域が好ましい。外国企業と契約する際には極めて重要) |
秘密情報管理者の指定 | 秘密情報受領者に対して、秘密情報管理者を指定し、厳重に管理させることを規定する条項 |
立入条項 | 秘密保持義務の履行を実現するために、相手方の事業所に立ち入り、秘密情報の管理状況を検査できることを規定する条項 |
契約終了時の受領情報返還・破棄 | 契約終了時の受領情報返還・破棄に係る義務を規定する条項 |
秘密情報を利用して知的財産権を創造された場合の知的財産権の帰属 | 秘密情報を利用して知的財産権を創造された場合の知的財産権の帰属を規定する条項 |
秘密保持義務違反による損害賠償 | 秘密保持義務違反による損害賠償、及び損害賠償の予定額を規定する条項 |
表2の条項が全てというわけではありませんし、この内容だけで秘密保持契約書が完璧というわけでもありません。ですから、お互いの会社にとってメリットのあるように修正してください。
保有する知的財産権の表示
技術的な部分をPRする方法はいくつかありますが、特に有効なのが技術等をPRする方法として、会社案内やカタログ、製品パッケージ等に、「特許取得済」、「特許出願中」、「特許件数○件」という記載です。
「特許」という文字だけで、人の心を引き付ける魅力があるのではないでしょうか。ですから、展示会やプレスリリース時、または会社案内やカタログ、製品パッケージなどに記載するのがおすすめです。
技術力のアピールに繋がり、商談相手に信頼感を与える効果があります。
更に特許番号を記載することで、訴訟を見越したプレッシャーを競合他社に与えることができるというのも大きなメリットです。米国で配布するものに特許を記載する場合には特許番号表示は義務となるので、日本国内でも行っておくことをおすすめします。
また、外国では「権利の存在を知った上で侵害した」という場合には損害賠償額が高くなる場合があります。例えば、米国の場合は損害賠償額が最大で3倍までに上がる(3倍賠償制度)ので、もしもの時のためにそういう制度も知っておくべきでしょう。