ということで本日の記事は、人工知能(AI)の特許権、著作権について、具体例を用いてわかりやすく解説します。今後、もっと増えて行くと思われるAIについて、今の内に知識を付けておきましょう。
アプリ配信の仮想サービスで考えてみましょう
まずは、猫または犬が撮影された画像から、被写体が猫か犬かを判別することができるAIが搭載されたアプリを配信するサービスを仮想事例として、AIで用いられるデータ及びプログラムについて整理してみましょう。
アプリの開発フェーズでは、猫または犬の画像と予めその画像を人が見て判別した結果の組を学習用のデータセットとして、AI(例:ニューラルネットワーク)の学習用プログラムに入力して、AI(例:ニューラルネットワーク)のパラメータ(結合荷重)を更新する学習を行います。
学習が済んだ学習済みモデル(=AI)がアプリに搭載されてアプリが配信されます。
これにより、ユーザがアプリに画像データを入力することにより、アプリは被写体が猫か犬かの判別結果を出力します。
ここで猫または犬の画像と予めその画像を人が見て判別した結果の組が学習用データセットの一例になります。
またパラメータ(結合荷重)の更新が完了した後のAI(例:ニューラルネットワーク)が、学習済みモデルの一例になります。
またアプリを配信するサービスが、学習済みモデルを用いたサービスの一例になります。
また、ユーザがアプリに入力する画像データは人工知能が処理対象とする処理対象データの一例になります。
「人工知能(AI)を使用して、猫か犬かを画像認識するアプリを配信するサービス」という仮想事例においても、アプリという大きな括りではなく、
- 処理対象データ
- 学習用データセット
- 学習用プログラム
- 学習済みモデル
- 学習済みモデルを用いたサービス
に細分化して考えていきましょう。
次の章で更に細かく解説していきましょう。
特許権、著作権での保護について
- 処理対象データ
- 学習用データセット
- 学習用プログラム
- 学習済みモデル
- 学習済みモデルを用いたサービス
処理対象データについて
- 特許権
通常、処理対象データは単なる情報にすぎないため、特許法上の発明に該当せず、特許権で保護されることはありません。 - 著作権
著作物性が認められる場合には保護される可能性があります。しかし、通常、処理対象データ自体は創作性が認められません。ですから、著作権で保護される可能性は低いと思われます。
学習用データセットについて
- 特許権
通常は、単なる情報にすぎないため、特許法上の発明に該当せず、特許権で保護されることはありません。 - 著作権
情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものはデータベースの著作物として著作権で保護されます(著作権法12条の2)。
通常は、創作性が認められにくいと思われますので、不正競争防止法の限定提供データとして保護されることを検討する必要があります。
学習用プログラムについて
- 特許権
特許法上の「プログラム等」に該当する場合、新規性・進歩性などの特許要件を満たせば、コンピュータ・ソフトウェア関連発明として特許権で保護される可能性があります。 - 著作権
プログラムの著作物として著作権で保護されます(著作権法10条1項9号)。
但し、 オリジナルのソースプログラムを見ることなく、偶然、同一または類似のプログラムが作成された場合、この作成されたプログラムはオリジナルのプログラムに依拠して作成されたものに該当せず、著作権侵害を問えない点に注意が必要です。
学習済みモデルについて
- 特許権
学習済みモデルが学習後のパラメータ(結合荷重)を含むプログラム(学習済みモデルがコンピュータによる情報処理を規定するもの)に該当する場合は特許権の保護対象となりますので、特許権で保護される可能性があります。
一方、通常、関数自体、行列自体には発明成立性が認められず、関数自体、行列自体は特許権で保護される可能性は低いと思われます。 - 著作権
学習済みモデルが学習後のパラメータ(結合荷重)のデータベースとして表されている場合には、「データベースの著作物」として著作物と認められる可能性があります。
一方、学習済みモデルが学習後のパラメータ(結合荷重)を含むプログラムに該当する場合は、「プログラムの著作物」として認められる可能性があります。
学習済みモデルを用いたサービスについて
- 特許権
当該サービスがアプリ等のソフトウェアの配信またはコンピュータシステムを用いたサービスなどの場合、当該ソフトウェアまたはコンピュータシステムは新規性・進歩性などの特許要件を満たせば、コンピュータ・ソフトウェア関連発明として特許権で保護される可能性があります。 - 著作権
当該サービスがアプリ等のソフトウェアの配信の場合、当該ソフトウェアはプログラムの著作物として著作権で保護されます(著作権法10条1項9号)。
但し、オリジナルのソフトウェアのソースプログラムを見ることなく、偶然、同一または類似のソフトウェアが作成された場合、この作成されたソフトウェアはオリジナルのプロ グラムに依拠して作成されたものに該当せず、著作権侵害を問えない点に注意が必要です。
とはいえ、大元の考え方としては、人工知能(AI)という大きな括りで見るのではなく、細分化して、それぞれのプロセスについて一つずつ丁寧に検討する、という方向でとらえると、わかりやすいと思います。
特許権、著作権の保護対象について
下記の2点については特許権で保護対象にはなりません。
- 処理対象データ
- 学習用データセット
しかし、下記の3点については、特許権の保護対象になりえます。
- 学習用プログラム
- 学習後のパラメータ(結合荷重)を含むプログラム
- 学習済みモデルを用いたサービス
一方、処理対象データについては著作権の保護対象になる可能性は低いですが、下記の3点についても著作権の保護対象になりえます。
- 学習用データセット
- 学習用プログラム
- 学習済みモデルを用いたサービス
また、学習済みモデルが学習後のパラメータ(結合荷重)のデータベースとして表されている場合には、「データベースの著作物」として著作物と認められる可能性があります。
一方、学習済みモデルが学習後のパラメータ(結合荷重)を含むプログラムに該当する場合は、「プログラムの著作物」として認められる可能性があります。
なお、学習済みモデルを含む上記5項目全てについて、秘密管理性、有用性、非公知性の三要件を満たせば営業秘密として不正競争防止法によって保護される可能性があります。