ということで本日の記事は、他社特許ウォッチングとはどのようなものか、またその必要性などについて解説していきましょう。
他社特許出願の監視(ウォッチング)の必要性
他社から侵害であると警告されたり侵害訴訟を訴えられたりするのを、ただ単に手をこまねいて待っているのは、リスク管理の観点から好ましいものではありません。
自社の製品・サービスに関連する他社の特許出願を監視して、権利化を阻止したり、権利を狭くしたりして特許侵害になるリスクを最小限に抑えることが好ましいです。
特許出願は、優先日(優先権を主張していない場合は現実の出願日)から1年半後に、特許庁から公開されます。
特許検索ソフトを利用して、自社の製品・サービスに 関連する他社の特許出願がヒットするように検索式を作ることにより、検索式の条件に該当する特許出願が公開された場合に、通知されるようにすることができます。
情報提供
特許庁では、特許出願に係る発明が新規性・進歩性を有していないなどについて、情報提供を広く受け付けています(特許法施行規則第13条の2)。
また、特許付与後においても同様に、情報提供を受け付けています(特許法施行規則第13条の3)。
近年、情報提供件数は、年間7千件前後で推移しており、情報提供を受けた案件の73%において、情報提供された文献等を拒絶理由通知中で引用文献等として利用しています(平成25年12月に拒絶理由通知書が起案された案件について調査)。 (出典:特許庁)
このように、情報提供により特許が登録される前に新規性・進歩性を否定できる文献を提出すれば、審査官によって採用される可能性が高いです。
しかも、情報提供は完全に匿名でできるため、情報提供された者が特定される心配がなく、情報提供によって、特許出願人から、その特許出願の内容を実施していることを疑われて 将来的に特許登録後に権利行使を受ける心配もありません。
このように情報提供を行うことによって、他社の特許出願が権利化されること、も しくは、他社の特許出願が自社の製品・サービスを含む範囲で権利化されることを防ぐことができます。
特に、自社の製品・サービスを含まないようにすることを第1目的にすべきであり、情報提供で提出する文献についても、自社の製品・サービスと同一または類似する技術の文献を最も重点的に提出すべきです。
他社特許権のウォッチング
自社の製品・サービスに関連する他社の特許登録を監視して、自社の製品・サービスが抵触している他社の特許権については取消や無効化を図ることで、特許侵害リスクを最小限に抑えることが好ましいです。
特許が登録されると、3週間ほどで特許登録公報が発行されます。
その場合、特許検索ソフトを利用して、自社の製品・サービスに関連する他社の特許登録がヒットするように検索式を作ることにより、検索式の条件に該当する特許発明を含む特許公報が発行された場合に、通知されるようにすることができます。
異議申立
異議申立は、特許公報発行日から6か月以内に特許権の取り消しを申し立てることができる制度です。申立人の名前は出てしまいますが、何人も請求することが可能です。
なので、ダミーの申立人(例えば法律事務所や特許事務所などの事務員)などの名前で請求することができます。
これにより、自社の名前を出さずに、特許権の取り消しを申し立てることができますので、特許権者に後々、この異議申立が原因で当該特許権者から権利行使を受けるリスクをほぼなくすことができます。
次に、特許異議申立の審理結果(図1)によれば、
- 最終的な取消が11.3%
- 異議申立の対象請求項の全てを削除する訂正が認められて異議申立が却下されたものが0.9%
- 特許の請求項が訂正されて特許が維持されたものが50.5%
となっています。これらを合計すると、権利範囲が変更されたものが62.7%です。
異議申立の対象の特許の請求項が取り消される確率は12.2%と少ないですが、権利範囲が変更されたものの確率は62.7%ですので、権利範囲を狭くできる可能性が結構あることが分かります。
※1 訂正されることなく又は訂正が認められず、特許がそのままの形で維持されたもの。
※2 訂正が全て又は一部認められて、特許が維持されたもの。
※3 異議申立の対象請求項の全て又は一部が取り消されたもの。
※4 異議申立の対象請求項の全てを削除する訂正が認められて、異議申立が却下されたもの。
出典:特許庁「特許異議申立の統計情報」【グラフ1】特許異議申立の審理結果(2019年12月末時点)をもとに作成
また、異議申立権利範囲が変更されたものの確率は56.6%と、権利範囲を狭くできる可能性が結構高いと言えます。
無効審判
無効審判は、対象の特許権に対する利害関係人のみが特許の無効を請求できる制度です。異議申立のように時期的制限はありません。
利害関係人であることが要求されていますので、異議申立のようにダミーの申立人をたてて請求することはできず、自社の名前で請求する必要があり、特許権者側に自社の名前がかってしまいます。
よって、特許無効審判は、特許権者から既に特許侵害の警告を受けている場合や、特許侵害訴訟で訴えられている場合に活用する制度になります。
次に、特許無効審判の審理結果(図2)によれば、2016年では無効の確率が25%です。異議申立よりも無効にできる可能性は高いですが、特許権者が有利なことには変わりがありません。
出典:特許庁「特許行政年次報告書 2017年版」のデータをもとに作成
ウォッチングの継続の重要性
自社の製品に関連する他社の特許出願、及び他社特許登録はいつ公開されるかわからりません。ですから、他社特許出願及び他社特許登録のウォッチングは、企画・開発時の一度だけでなく、継続して行うことが重要です。
特許検索ソフトには、
- キーワード
- 特許分類
などを用いて、特定の検索式に該当する特許出願または特許登録が公開された場合に通知するようにすることができるものがあります。このようなソフトを利用することによって、日々のウォッチングに係る労力を軽減することができるので利用をお勧めします。