まだ、小さな会社だし、商標登録はもう少し大きくなってからでもいいかと思っているのですが。
ということで、会社を立ち上げた時に、「法人登記はするけど商標登録はしていない」というパターンは結構多いようです。
実はあまり知られていませんが、会社の商標登録は重要です。ですから、本日の記事は、会社の商標登録について
- 会社名の登記と商標登録は別のもの
- 会社名を商標登録しない場合のリスク
- 商号を登記するときに商標も一緒に登録することの勧め
の3つについて、わかりやすく解説していきましょう。
会社名の登記と商標登録は別のもの
会社名は、法務局で商号として登記をしますが、登記と商標登録は異なるものです。よって、商号を登記したとしても、商標登録がされているわけではありません。
自社で商標登録した場合、自社は、
- 指定商品
- 指定役務
について同一の商標を独占的に実施する権利(いわゆる専用権)と、類似の商品・役務について、同一または類似の商標の他者の使用を排除することができる権利(いわゆる禁止権)を有します。
専用権と禁止権については、他の記事で詳しく解説しているので下記リンクを参考にしてください。
質問者 商標権はやっぱり取っておいた方が良いですよね?そこまで必要かな・・・とも思うのですが。 酒谷弁理士 はい。新しい商品・サービスを発売する前に、商標権を取るために商標出願をしておいた方が良いと思います[…]
逆に言えば、商標登録をしていなければ、自社の会社名と同じネーミングを、他社が商標として使用したとしても、それを止めることはできません。
更に、自社の会社名について、商標登録していないと、実は、非常に困ったことになることがあります。
会社名(商号)を商標登録しない場合のリスク
仮に自社がその商標について他社よりも先に使用していたとしても、他社がその会社名の商標または類似の商標について、自社の商品・サービスと同一または類似 の商品・サービスにおいて、商標を取得することができます。
そして、一旦、他社が、その会社名の商標または類似の商標について、自社の商品・サービスと同一または類似の商品・サービスにおいて商標権を取得してしまうと、自社でその商標を使用する際に細心の注意が必要になります。
具体的には、自社は当該商品・サービスにおいて、自己の商号(例えば、株式会社ABCD)を不正競争の目的なく、(省略することなく)「普通に用いられる方法」で使用することはできます。つまり、会社のパンフレットやホームページに通常の書体で「株式会社ABCD」と記載するのは大丈夫です。
しかし、商標法26条1項1号・商標法26条2項では不正競争の目的がある場合、もしくは当該商標を「普通に用いられる方法ではない態様」で使用する行為については、当該他社の商標権の侵害になり、使用の差止及び損害賠償を請求されるおそれがあります。
このように、不正競争の目的ではなく、取引の実情に照らして普通の方法で使用している範囲であれば、自己の商号(例えば、株式会社ABCD)を商標として例外的に使用することができます。
しかし、実際のビジネス現場では、以下の2つの問題(デメリット)が生じます。
この自己の商号(例えば、株式会社ABCD)を商標として使用できるのは、「普通に用いられる方法」での使用に限られることです。
商号が目立つ表示態様になっている場合などには上記の例外は適用されなくなってしまうので、そのような使用はできないという問題があります。
もう1つは、あくまで「自己の商号(例えば、株式会社ABCD)」に限って使用できるのであり、商号から「株式会社」など会社の種類を表す表記を除いたものは商号の略称(例えば、ABCD)であるから上記の例外は適用されず、使用できないという問題があります。
商品やサービスなどに商号を使用するときには、商号から「株式会社」 などの表示を除いた略称を使用することが多いので、特に注意が必要です。
したがって、商号を目立たせるような形態で商品又はサービスに使用したい場合や、商号の略称(商号から「株式会社」など会社の種類を表す表記を除いたもの)を使用したい場合には、商業・法人登記とは別に、商標登録出願を行って、商標登録しましょう。
商号を登記するときに商標も一緒に登録することの勧め
会社の設立時には、商標登録のために費用を支払うことはもったいないように感じる人も多いでしょう。
また、創業した頃は業界における影響力も小さいので、商標権の問題が起こることはあまりありません。
ただ、会社の設立から数年経過し、事業規模がある程度大きくなった段階で突然問題となることがあります。
ですから、「転ばぬ先の杖」ということわざのように、自社だけは大丈夫だと思わないで、商標登録をすることについて前向きに検討しましょう。
また、商標登録を忘れないように、会社の商号を登記するときに、商標も一緒に出願するとよいでしょう。
といっても、それ程難しいことではありません。定款には、法人の目的のところに、法人が行う以下の2点を記載します。
- 指定商品
- サービス
そして、上記を商標出願の指定商品・指定役務に使用すれば、あまり手間もかかりません。
以下に、会社名(商号)を決める際の最低限守るべき法律のルールについて紹介し ます。以下の法律のルールを最低限守って商号を決定し、その商号を商標登録しま しょう。
- 同一商号・同一本店の禁止(商業登記法第27条)
同じ本店所在地で、同じ商号を登記できません- 著名表示冒用行為の禁止(不正競争防止法2条1項2号)
有名企業の商号もしくは著名なブランド名や著名な商品名など著名な他人の商品等表示を商号に使用することは避けましょう。
不正競争防止法に違反するとして、「商号の使用差止め請求」や「損害賠償請求」を受けるおそれがある からです。- 周知表示冒用行為の禁止(不正競争防止法2条1項1号)
他社の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若し くは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう)として需要者の間に広 く認識されているものと同一若しくは類似の名称を商号に使用することは避けましょう。
不正競争防止法に違反するとして、「商号の使用差止め請求」や「損 害賠償請求」を受けるおそれがあるからです。- 商標権侵害行為の禁止(商標法)
候補となる商号が、他社の商標権に係る商標と同一もしくは類似であり、他社の商標権に係る商品・役務と同一もしくは類似の商品・サービスに使用する 予定の場合には、当該商号を使用することは避けましょう。
使用態様によっては商標権侵害として 「商標の使用差止め請求」や「損害賠償請求」を受けるおそれがあるからです。
商標出願を行う際には、気を付けてほしいことがあります。
専用権と禁止権に気を付けよう!
商標出願を行う際には、専用権と禁止権に注意してください。
- 専用権
商標を独占的に実施する権利 - 禁止権
類似の商品・役務について、同一または類似の商標の他者の使用を排除することができる権利
これらの権利は自社だけでなく、他社ももちろん持っていますので、気を付けてください。