
今開発中の電気製品について相談させてください。



今回は、電気製品の新しい部品を開発した場合の知財での保護について取り上げます。新機能を有する構造を対象にして、特許出願や意匠出願、更に特許出願から意匠登録出願への変更について詳しく解説します。
電気製品だけでなく、様々な分野でも応用可能なので、参考にしてください。
新しい機能を有する構造を保護する方法


電気製品の開発は、シリーズとして様々な製品の販売を念頭に置いて開発する場合が多くあります。その場合には基本部分は同じ部品を使用することも多いでしょう。
また、電気製品の部品を新たに開発した場合、その部品は自社で今後発売する他の電気製品にも使用する可能性があります。
ですから、電気製品に関する新しい機能を有する構造を保護する方法としては、機能面に着目して、同じ機能を有するバリエーションの構造を包含するように特許権を取得するのがおすすめです。
また、特許権だけではなく、意匠登録出願ということも検討するべきでしょう。その際、以下の2つの観点から検討するとよいでしょう。
- 新しい構造の部品全体について意匠登録出願をする
- 部品の新しい構造の部分について部分意匠出願をする
将来的なことも考えた時、特許出願と意匠出願をすることがおすすめです。

関連意匠出願を検討しよう!
意匠法第10 条第1項に定められている「関連意匠出願」についても検討する必要があります。関連意匠出願というのは、実際に設計及び販売する部品の形態だけではなく、その形態に類似する形態についても意匠出願するというものです。
つまり、同一出願人であれば、1つの意匠出願に係る意匠(以下、本意匠という)に類似する意匠について意匠出願ができます。その際、本意匠を引用意匠としないことにより、後から出願する関連意匠が先に出願された本意匠によって拒絶されないようにする制度です。
関連意匠出願により、様々なバリエーションの形態について広く意匠権を抑えるのに役立ちます。なお、関連意匠出願は本意匠の出願日から10年以内なら出願が可能です(2019年の意匠法改正により)。

部分意匠の意匠権についての権利範囲の広さについて


裁判例(平成28(ワ)第12791号)を用いて、部分意匠にの権利範囲について説明します。本裁判例は、LED放熱フィンの部分意匠に係る意匠権の侵害について争った事件です(図1)。

図1は以下のように2つに分けて考えます。
- 実線:部分意匠として意匠登録を受けようとする部分
- 破線:意匠登録をうけようとしない部分

それに対して被告は、被告が販売している製品(被告製品)として、以下のイ号物件を販売していました。なお、裁判では、被告製品を、イ号物件、ロ号物件、ハ号物件などと表現します(図2)。

図2において実線部分が本件意匠に対応する箇所です。
裁判所は、このイ号物件については、以下のように侵害であると判断しました。
中間フィンの枚数,支持軸体とフィンの径の関係,フィンの間隔とフィンの径の関係について,大きく相違すれば異なる美感を生じさせる場合があることは前述したところであるが,本件意匠とイ号物件ないしハ号物件の各意匠との差異はわずかであり,格別異なる美感を生じさせるとまでは認められない。
意匠権は、類似の範囲まで権利行使できますが、上記の裁判例では、被告のイ号物件が本件意匠に類似するとして、被告による意匠権の侵害を認めました。

お勧めの知財保護戦略


お勧めの知財保護戦略としては次のような手順がおすすめです。
- 公表前に特許出願を検討する
- 公表前に部分意匠出願をする
- 場合によっては特許出願から意匠登録出願への変更を検討する
では、順に見ていきましょう。
公表前に特許出願を検討する
知財保護戦略として、まず最初に検討するのは、特許出願の検討をすることです。
電気製品の部品構造に新しい機能がある場合にはプレスリリース前、且つ販売前にその構造について特許出願をするのがおすすめです。
その機能について特許権を取得することができれば、権利行使することができます。ですから、もし同じ機能を有する競合製品が現れた場合には、その競合製品を販売する競合会社に対して製品販売の差し止めや損害賠償請求などが可能です。

部分意匠出願
特許出願と共に意匠出願についても検討しましょう。
まずはその新しい構造の部分について、部分意匠出願ができないかという検討を行います。更に、その構造の部分について考えられるバリエーションの形態についても関連意匠制度を利用して部分意匠出願することをお勧めします。
関連意匠制度を利用して部分意匠出願することで、競合他社からは意匠権を回避されません。
特許権と部分意匠の意匠権との両方を取得することができれば、将来の競合製品に対して権利行使できる可能性を高めることができ、参入障壁を高くすることができます。

ところで、特許出願から意匠登録出願へ変更することも可能です。
特許出願から意匠登録出願への変更
意匠法第13条第1項には特許出願から意匠登録出願へ変更することができると定められています。
ですから、これを利用して将来的に部品を模倣してくるような侵害者が出て来た時の為に、意匠権で権利行使をする余地を残しておくことを事前に検討するのがおすすめです。
その際には、予め特許出願明細書及び図面において、様々なバリエーションの形態について記載しておきましょう。記載には六面図と斜視図が必要です。
なお、特許出願書類に六面図を記載していない場合であっても、部分意匠の意匠登録を受けることができます(意匠審査基準71.12)。その際には、特許出願から意匠登録出願への変更する時に、特許出願書類において開示されていないところを破線とし、開示されている部分を実線で表わさなければなりません。
六図面とは、下記のものを指します。
- 底面図
- 正面図
- 背面図
- 右側面図
- 左側面図
- 平面図
ただし、特許出願を意匠登録出願に変更すると、もとの特許出願はみなし取下げとなる点には注意が必要です。


図3は意匠登録第1407356 号の登録意匠(意匠に係る物品:ローラー付き靴)についての詳細図です。特願2009 – 254011の特許出願から部分意匠出願に変更されて登録されました。
特願2009 – 254011の特許出願は、米国仮出願60/353,868に対して優先権を主張して出願したものであり、米国仮出願60/353,868に基づく米国特許US6698769号とほぼ同じものであると思われます。

このように、元の特許出願(特願2009 – 254011)と実質的に同一と思われる米国特許US6698769号には、図3にあるFig22の斜視図とFig23の一部底面図しか記載されていません。

図4において、実線と破線は以下のような意味になります。
- 実線:新たに部分意匠として意匠登録を受けようとする部分
- 破線:既に意匠登録されている部分
つまり、破線で表された部分は権利範囲を表していません。ですから、ローラー付き靴のソールの側面とソールの底面のローラ側の部分については、既に意匠登録がされている部分となります。
この場合、特徴的な部分は、ソールの底面のうちローラ側の部分だけです。ですから、広く権利行使可能にするために、ソールの底面のうちローラ側の部分だけを部分意匠登録しているということがわかります。
今回の例において、特許出願書類に添付されていたのはソールの底面のローラ側の部分だけでした。しかし、底面図が正確な縮尺で記載されていたことで、結果として広い意匠権を取得することに成功しています。
