製品の量産を行うには、金型が必要となります。しかし、海外に製造工場がある場合は金型を海外に送ることに躊躇するという場合があるでしょう。気になるのは、金型の他社への流出です。金型が流出することで、多くのリスクが考えられます。
そこで今回は金型の流出、金型図面や加工データの流出を防ぐためにどのようなことができるのかということについて詳しく解説します。海外での事業展開をされる場合には参考になるので、是非ご覧ください。
大量生産のための金型!自社工場から出すのは危険?
製品を大量生産する上で欠かせない存在となるのが金型です。例えば、自動車のボディー、スマートフォンの樹脂製品、固形石鹸など、様々な製品の製造に金型を使用しています。
つまり、金型さえあれば同じ形状の部品が量産可能ということです。
ある会社が製品を大量生産するために、下請けの海外の会社で大量生産するために、金型を海外の工場へ送ることを検討する場合があります。
このとき、海外に送った金型が違法にコピーされたらどうなるでしょうか。
海外で違法にコピーされた金型が他の競合他社メーカーに流出する可能性も考えられます。そうなれば、コピー製品を製造し、販売されてしまうかもしれません。
更に、その金型で制作する部品の形態自体が特殊なもので、自社の優位性を担保するものであれば尚更危険です。そうなれば自社の技術は盗まれ優位性が無くなり、その結果、価格競争に陥って利益が出ないということになりかねません。
原則、金型は自社工場から外に出すのは避けましょう。なぜなら、一度、金型がコピーされれば、コピー製品を作るのは容易です。独自のノウハウが詰まった金型を海外の工場に送ること自体を避けるべきといえます。
もし、下請けの海外の会社で大量生産する場合には、金型を厳重に管理する体制を作ることが重要です。
また、ある程度、企業規模が大きくなってくれば、自社の海外工場で大量生産してもよいでしょう。但し、自社の海外工場を作る自社の海外工場であっても、金型は厳重に管理する体制を作ることが重要です。
製品メーカが製品を保護するには
上記のように、金型をコピーされた場合には製品のコピー品が市場に出回る可能性があります。しかし、そのような場合でも、特許権、実用新案権または意匠権を取得しておくことで保護できる可能性があります。
海外で製品を保護するということにおいて、次の2つの場合についてわけて考えてみましょう。
- 物の形態が同時に技術的効果を有する場合
- 従来と比べて優れた効果または異質な効果がないがデザインに特徴がある場合
物の形態が同時に技術的効果を有する場合は特許権と意匠権を!
物の形態が同時に技術的効果を有する場合には、「特許権」と「意匠権」の両方を取得して保護するのがおすすめです。
例として、タイヤのドレッドパターンについて考えてみましょう。
タイヤのドレッドパターンはスリップ防止という技術的効果を有します。ですから、その機能について特許権を取得できる可能性があります。しかし、それだけではありません。タイヤのドレッドパターンは、その形態そのものについて意匠権を取得できる可能性があります。
また、下記の両方に該当する場合には、特許権・実用新案権の取得可能性があるので、特許出願をすることをお勧めします。
- 製品の構造または形態について従来にないもの
- 従来にはない優れた効果または異質な効果を有する
従来と比べて優れた効果または異質な効果がないがデザインに特徴がある場合
従来と比べて優れた効果または異質な効果がない場合について考えてみましょう。
製品の形態については従来にないものであるが、従来と比べて優れた効果または異質な効果がないという場合には、特許可能性は低いと言えます。しかし、意匠権の取得可能性はあるので、意匠出願を検討すべきです。
意匠権を取得することで、権利が侵害された場合
- その製造・販売の停止を請求し、
- 侵害者の金型廃棄を請求する
ことも可能となります。
金型メーカの対応策!技術流出が起こる前に!
上記は、製造メーカ側の話でした。では、製造メーカから委託を受けて金型製作をしている金型メーカの場合についても考えてみましょう。
近年、金型メーカの間で、金型自体の流出ということではなく金型図面や加工データが流出するというケースが発生して問題になっています。
この問題の原因としては、金型発注企業からメンテナンスなどを行う場合に図面や加工データが流出するという可能性が高い状況です。金型のメンテナンスを行う上で、金型の図面や加工データが必要となるので、それらのデータを提出するように要求される場合があります。
そのデータを元に、海外企業では以下のようなことが起こっています。
- 二番型などの制作
- 類似の金型製造委託
その結果として、国内の金型受注の減少や、日本の金型企業が持つ技術やノウハウの流出という問題が発生しました。
では、このような問題に対して、どのような対応方法があるでしょうか。
現実的対応
金型メーカが、金型図面を顧客である製造メーカに提出する際には以下のような対応が好ましいでしょう。
- ノウハウを教えない
- 材料の発注先を記載しない
- 重要部分は自社で管理する
将来的対応
金型メーカーの技術流出を防ぐ為の将来的対応として考えられることは、次の4点です。
- 製造メーカにその内容は開示しない
- 性能データだけを開示する
- 発注先と製品を共同開発する
- 特許権を共有する
金型メーカがオンリーワンの技術またはノウハウを獲得した場合には上記の対応策を参考にしてください。ここで、特許法73条3項では以下のように定められています。
特許権者が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない
つまり、金型メーカとその発注先が特許権を共有することは可能です。しかし、発注先が他の金型メーカに特許ライセンスする際、当該金型メーカの同意が必要になります。
ビジネス上、金型メーカが他の金型メーカへの特許ライセンスを同意することは通常はありえません。ですから、結果的に発注先は当該金型メーカから金型を購入することになります。
結果的に他社の金型メーカに仕事を奪われるリスクをおさえることができます。