【事業企画段階】知財面の注意点とは?

質問者
新しい事業を企画しているのですが、知財面で留意することはありますか?
酒谷弁理士
そうですね、もちろんありますよ。
特許をして申請したほうがいいものと、その逆に、自社のノウハウとして秘匿化しておいた鵬がいいものがありますね。
質問者
そうなんですね。詳しく知りたいです。
酒谷弁理士
わかりました。詳しく説明しましょう。

ということで本日の記事は、事業の企画段階において知財面に留意することを、下記3つの観点から解説していきましょう。

  1. 特許取得すべき技術とノウハウとして秘匿化すべき技術を区別
  2. 特許登録の新規性要件
  3. 外国出願のルート

特許取得すべき技術とノウハウとして秘匿化すべき技術を整理

特許取得すべき技術とノウハウとして秘匿化すべき技術を区別

質問者
特許を取得すべきかどうかの判断方法はありますか?
酒谷弁理士

では、どのように判断すべきか「特許取得すべき技術」と「ノウハウとして秘匿化すべき技術」について詳しく解説しましょう。

特許出願すべきか否か判断する基準の1つに、侵害の立証可能性の有無があります。

すなわち、侵害が立証できるのものについては特許出願し、侵害の立証が難しいものは、特許出願しないで秘匿化するということです。侵害が立証できるのとしては、次のようなことが考えられます。

  1. 製品の外観または動作から侵害が判断できるもの
  2. 分解するとその機構や機能が分かるもの
  3. 成分分析すれば成分が分かるもの

一方、侵害の立証が難しいものは、工場で実施される製造方法などです。製造方法は、概して製品をみただけでは分かりませんし、競合の工場に査察することが難しく製造方法の証拠を入手するのが難しいからです。

その後、特許取得すべき技術については、特許の権利化を日本だけでなく、

  • 販売する国(事業を行う国)
  • 生産委託をする国

において、個別に特許権を取得する方針を考えましょう。

要点をまとめると、特許を出願すべきかどうかの基準の一つに「侵害の立証可能性の有無」があります。具体的に言うと、次のような基準となります。

  • 特許の侵害が立証できるものに関しては特許化
  • 特許の侵害の立証が難しいものは秘匿化

また、この基準の中で特許を収得するのであれば、特許の権利化を日本だけではなく、下記の国にまたがって収得しておいた方がいいでしょう。

  • 販売する国(事業を行う国)
  • 生産委託をする国
質問者
つまり、特許の侵害が立証できるものは特許化するのが好ましく、立証が難しいものは秘匿化するのが好ましいということですね。

特許登録の新規性要件

特許登録の新規性要件

質問者
特許登録で重要なことは何ですか?
酒谷弁理士
やはり新規性という部分ですね。では、特許権の新規性について解説していきましょう。

まず前提として、特許権を取得するための要件に、「新規性」があります。特許を収得下押いのであれば、出願時点において、新規なもの(世の中にないもの)である必要があります。

ですから、出願前に試作品またはデモ品を展示会に出品してしまうと、新規性がなくなり原則として特許を取得することができなくなります。

但し、日本、米国、韓国など限られた国では、新規性の喪失の例外といって、発表後1年以内に特許出願した場合に限って、下記2点については自らが公開した行為によって新規性が喪失されないという規定があります。

  • 展示会の出品
  • 論文での公開

中国、欧州にも新規性喪失の例外の規定がありますが、中国ではこの規定の適用が、中国政府が主催又は承認した国際展覧会への出品などに限定されますし*1、 欧州では、この規定の適用が、国際博覧会に関する条約にいう公式または公認の博覧会への出品に限られます*2。

よって、中国、欧州では、日本の展示会で出品した場合または論文、学会で発表した場合には、原則、新規性の例外の規定が適用されず、 新規性がないとして、特許権を取得することができません。

よって、外国出願を考慮している場合には、展示会、学会または論文での発表の前に、特許出願をしておくと良いでしょう。

質問者
新しい機能を持った商品を開発した場合、展示会などで自慢したくなる気持ちはわかりますが、その前に特許を収得しておく必要があります。

*1 中国では、出願日(優先権主張の場合、優先日を指す)から遡って6か月以内に下記行為の何れかに該当する場合には、新規性を喪失しないとされています。

  1. 中国政府が主催又は承認した国際展覧会において初めて出展した場合
  2. 指定された学術会議又は技術会議で初めて発表した場合
  3. 他人が出願人の同意を得ずにその内容を漏らした場合

*2 欧州では、出願日(優先権主張の場合、優先日を指す)から遡って6か月以内に下記行為の何れかに該当する場合には、新規性を喪失しないとされています。

  1. 出願人又はその法律上の前権利者に対する明らかな濫用による公知(Article 55(1)(a) EPC)
  2. 出願人又はその法律上の前権利者が、1928年11月22日にパリで署名され、最後に1972年11月30日に改正された国際博覧会に関する条約にいう公式又は公認の国際博覧会に発明を展示したことによる公知(Article 55(1)(b) EPC)

外国出願のルート

外国出願のルート

質問者
外国で特許を出願するにはどのようにすれば良いのでしょうか?
酒谷弁理士
外国における特許出願は2つのルートがあります。それぞれの違いについて、解説していきましょう。

特許の外国出願には、主に以下の2通りの方法が一般的です(図1)。

図1 外国出願のルート
図1 外国出願のルート
  • (ルート1:パリルート)日本出願から1年以内に優先権を主張して外国特許庁へ直接出願する方法
  • (ルート2:PCTルート)日本出願から1年以内に優先権を主張して国際特許出願(PCT出願)する方法

優先権を主張することによって、いずれも新規性・進歩性の判断時を、元の日本出願の時にすることができます。

ルート1の方法は、出願する国が確定している場合に用いることができる方法です。出願する国が少ない場合に、ルート2の方法よりも通常は費用が安くなる傾向にあります。ルート2の方法は、出願する国が確定していない場合に、お勧めの方法です。

国際出願後、日本出願から2年半の期間まで実際に国内移行する国の選択を先延ばしにすることができるからです。

また、PCT出願の場合には、出願後2~3か月後に送付される国際調査報告において、国際調査機関による暫定的な新規性、進歩性判断が示されます。

なのでそれを利用して、特許権を取得できるか否かの目安として使用することができます。

この方法のメリットとして、国際調査報告における調査報告の内容を見てから、実際に各国に国内移行するかどうか決めることができます。

なので、新規性等がないと分かった場合には、国内移行しないようにすれば、無駄な費用を払わなくても済むでしょう。

質問者
特許の外国出願は、「パリルート」と「PTCルート」の2つが存在します。それぞれのメリットがあるので、用途に合わせて使い分けるとよいですね。
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