【展示会・プレスリリース】事前に知財面で注意する点とは?

質問者
今度、展示会に参加するのですが・・・
酒谷弁理士
新しい商品をリリースするのでしょうか?
質問者
そうなんです。
そのことで、 聞きたいことがあるのですが・・・
酒谷弁理士
気になりますね。何でしょうか?
質問者
商標登録出願は展示会の後のタイミングでもいいのでしょうか?
酒谷弁理士
それはよくないですね。
展示会の前に商標登録出願しないと、その商品・サービス名で他人に商標権を取得されて、その商品、サービス名で販売できなくなるというリスクがありますので、事前に商標登録出願しておくことをおすすめします。

ということで本日の記事は、展示会及びプレスリリース前に知財面で気を付けることを、下記3点の観点から解説していきましょう。

  1. 特許権・実用新案権・意匠権には新規性の要件がある
  2. 商標登録には新規性の要件はない
  3. 外国における商標権の取得検討

特許権・実用新案権、意匠権には新規性の要件がある

特許権・実用新案権、意匠権には新規性の要件がある

質問者
どうして特許や実用新案などは展示会前に出願する必要があるのでしょう?
酒谷弁理士
最も重要なのは「新規性」という点です。展示会に出展した後に「新規性」が無くなる可能性があります。

もし、特許権・実用新案権にできそうな技術がある場合には、展示会に出展する前及びプレスリリース前に下記2点を行いましょう。

  • 特許出願
  • 実用新案出願

何故なら、特許・実用新案の登録要件に、新規性の要件(今までに無かった新しい発明、考案、意匠であることが必要という条件。)が課されているからです。また、その製品の形態について、独自の形態であれば、意匠権にできないか検討しましょう。

形態が意匠登録できそうであれば、展示会に出展する前及びプレスリリー ス前に、意匠登録出願をしましょう。意匠の登録要件にも、新規性の要件が課されているからです。

質問者
展示会・プレスリリースの前に調査しておいた方がいいですね。

商標登録には新規性の要件はない

商標登録には新規性の要件はない

質問者
商標登録についてはどうなのでしょうか?
酒谷弁理士
実は、商標登録には新規性の要件が無いので、展示会の後でも問題ない場合があります。

商標の登録要件に、

  • 特許
  • 実用新案
  • 意匠

で課されている新規性の要件はありません。

ですから、商標登録の要件として新規性が要求されないのであれば、商品・サービス名の商標登録出願前に、その商品・サービス名を発表してしまっても問題ないようにも思われます。

質問者
商標登録では新規性を問われることがありません。つまり、プレスリリース後に商標登録出願をしても、そのことのみをもって商標登録を受けることができなくなることはないということですね。

こうした事情もあって、発明・考案・意匠よりも商標の出願には“甘さ”があるケースがあります。

商標登録は先願主義

商標登録は先願主義という制度を採用しています(特許・実用新案・意匠も同様です)。先願主義は、先に特許庁に出願をした者が優先されるという“早い者勝ち”の制度です。

具体的には、同じような商標が別々の者から商標出願された場合、先に出願した者の商標が登録され、後から出願した者の商標は先に出願した者の商標と同一又は類似であるとして登録を受けることができなくなるという制度です。

つまりプレスリリースを見た他人が、その商標を先に出願してしまい、自分が商標登録を受けることができなくなるリスクがあるということです。

最近は、当事者とは無関係の者が先取りして商標出願をしてしまったというニュースが頻発していますので、注意が必要です。

質問者
商標登録は先願主義です。このシステムを悪用される場合もあるので注意が必要ですね。

商標登録の新規性要件がないことのリスク

商標登録に新規性要件がないことが、新規性要件のある特許・実用新案・意匠よりも、商標の方がより大きなリスクを抱えることになりかねない場合があります。

特許・実用新案・意匠に関しては、登録要件として新規性が要求されるので、発明・考案・意匠の内容を公表してしまうと、新規性を失ってしまいます。

そうなると、基本的には登録を受けることができないのですが、それは、自分だけでなく、他人も同様に登録を受けることができなくなるという効果があります。

そのため公表の順番を間違えると、特許・実用新案・意匠の登録を受けることができなくなりますが、同様の発明・考案・意匠を他人に登録されてしまうという心配は原則としてありません。

一方、商標登録の場合は、新規性が要求されません。ですから、自分が公表した商標を、その後、他人が商標登録をすることも可能となっています。

質問者
商標登録に新規性が要求されないことで、むしろその商標の商標権が他者に取得されるリスクを大きくしていると考えることもできますね。

商品・サービスについての展示会及びプレスリリース前に商標出願すべき

商品・サービスに用いる商標を出願する前に、その商品・サービスについて発表する展示会への出展、及びプレスリリース等は行うべきではありません。

商品・サービスについての展示会への出展及びプレスリリース前に、商品・サービス名について商標出願すべきです。なお、特定の要件を満たす博覧会に出品した商品又は出展した役務について使用をした商標について、

  • その商標の使用をした商品を出品した者又は役務を出展した者が
  • その出品又出展の日から6か月以内にその商品又は役務を指定商品又は指定役務として商標登録出願をしたとき

は、その商標登録出願は、その出品又は出展の時にしたものとみなすという救済規定があります(商標法第9 条1項)。ですから、順番としては特許や商標の収得は展示会、プレスリリースの前にやっておく、となります。

質問者
商標登録は先願主義という制度を採用しています(特許・実用新案・意匠も同様です)ので気を付けてください。

外国における商標権の取得検討

外国における商標権の取得検討

質問者
商標登録は、日本も外国も同じような感じなのでしょうか?
酒谷弁理士
国毎に出願をしなければなりません。では、外国における商標権の取得検討について解説していきましょう。

日本だけでなく、商品を販売またはサービスを提供する国(事業を行う国)において、商標権を取得する方針を考えましょう。外国で商標の登録を受ける場合、それぞれの国で個別に出願手続を行う方法があります。

一方、複数国での商標権の取得は、「マドリッド協定議定書(マドプロ)」に基づく一括手続が便利です。マドプロ出願による国際登録出願を利用することで、日本国特許庁に提出する1つの願書で複数国に一括して手続を行うことが可能になります。

但し、マドプロ非加盟国への出願ができませんので、この辺は注意しておいた方がいいでしょう。商標権を取得したい国が、マドプロ加盟国に含まているかどうかは、特許庁のホームページで確認しましょう。

通常、 次の図1のように日本の商標出願から6か月以内に優先権を主張してマドプロ出願することで行われます。優先権を主張することにより、日本出願時を基準として出願の先後願が判断されます。

マドプロを用いた外国における商標権
マドプロを用いた外国における商標権
質問者
外国で商標権を取得する場合は、マドプロ出願による国際登録出願を利用しましょう。

マドプロ出願の要件

マドプロ出願をするには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 日本において、既に登録商標を有しているか又は商標登録出願を行っていること
  2. マドプロ出願する商標とその基礎となる日本の登録商標又は出願中の商標が同一であること
  3. マドプロ出願による国際登録出願の出願人と、その基礎となる日本の登録商標の権利者又は出願中の商標の出願人が同一であること
質問者
日本で商標を登録しているか出願していないとマドプロ出願はできないので注意してくださいね。

マドプロ出願のメリット

マドプロ出願には次のメリットがあります。

  1. マドプロ出願は、日本出願または登録を基礎として特許庁に英語により国際出願すれば、国別の出願手続き、翻訳が不要ですので、経費の削減及び手続の簡素化を図れます。
  2. 審査国の審査機関が12または18か月以内に保証されています。
  3. WIPO国際事務局における国際登録簿により権利関係が一元管理されるので、 同事務局へ存続期間の更新等の手続を一括して行うことにより、各指定国への手続を省略でき、権利の管理が容易になります。
  4. 指定国で拒絶理由が発見されずに登録になる場合は、その指定国においては現地代理人の選任は不要となります。
  5. 出願時に指定しなかった締約国、出願後に新たに加盟した締約国についても事後指定の手続により領域指定ができます。
  6. 国際登録出願時に特定の国に対し商品・役務を限定的に指定した場合でも、国際登録の範囲内であれば、指定しなかった商品・役務を事後指定により追加することができます。
質問者
マドプロ出願の一番のメリットは国別の出願手続きが不要となる点ですね。

マドプロ出願のデメリット

一方、マドプロ出願には次のデメリットがあります。

  1. マドプロ出願は、日本出願と同一書体で、指定商品及び指定役務も日本出願に含ま れている必要があるため、国際出願を前提として日本出願をする必要があります。
  2. 日本の基礎出願または基礎登録が、国際登録から5年以内に拒絶や無効等になると、基礎出願または基礎登録が取り消された範囲内で、国際登録も取り消される(いわゆるセントラルアタック)点に注意すべきです。
  3. 出願書類が1通りのため、各国の事情に応じた出願ができず、各国特許庁から拒絶理由を受けることがあります。
質問者
マドプロにはメリット・デメリットがあります。ですから、よく理解したうえで、必要であればどんどん利用していきましょう。
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