今回は他社の特許権を侵害しているか否かを調査するクリアランス調査について詳しく解説しましょう。他社の特許を侵害している場合には色々なデメリットやペナルティが考えられます。そのようなことが無いようにあらかじめクリアランス調査を行いましょう。
クリアランス調査の必要性
自社の新製品や新サービスが他社の特許権を侵害している場合、次のようなことが発生する可能性があります。
- 特許権を有する他社から、新商品・新サービスの販売の中止の警告を受け、最悪の場合、新商品・新サービスの販売を中止せざるを得なくなる可能性
- 直近3年分の販売分について損害賠償請求され、直近3年分の販売分の利益に相当する金銭を支払わざるを得ない可能性
- 10年前から3年前の販売分について、ライセンス相当額の金銭を支払わざるを得ない可能性
ですから、上記のようなことが発生しないよう、新製品や新サービスをリリースする前にクリアランス調査をしておきましょう。
新製品・新サービスのリリース前のクリアランス調査は必須です。
他社特許権の調査方法!特許情報プラットフォームを利用しよう!
他社の特許権を調べる方法としておすすめは、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)です。J-PlatPat は無料で使用できる( 独) 工業所有権情報・研修館(INPIT)のWEBサービスです。工業所有権情報・研修館(INPIT)は特許庁の関連機関なので、安心して利用できます。では、早速アクセスしてみましょう。
J-PlatPat のURL は以下の通りです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)にアクセスすると、画面1のような画面が表示されます。左上の「特許・実用新案」というメニューの上にマウスカーソルを重ねると、次の3つのメニューが表示されます。
- 特許・実用新案番号紹介/OPD
- 特許・実用新案検索
- 特許・実用新案分類紹介(PMGS)
他社の特許権を調べる場合、2番目の「特許・実用新案検索」を選択してください。
すると、画面2が表示されるので、この画面で特許権を調べます。国内の特許権を調べたい場合の検索手順は次のようになります。
- 「テキスト検索対象」を和文のままにしておく
- 「文献種別」を「国内文献」のままにしておく
- 検索キーワード欄で「検索項目」を選択する
- キーワードを入力して検索する
では、次の2点について具体的に検索してみましょう。
- 人工知能に関する特許を網羅的に検索する場合の例
- IoT 関連技術について網羅的に検索する場合
人工知能に関する特許を網羅的に検索する場合の例
では、人工知能に関する特許を検索してみましょう。特許の検索時、まず最初に分野を指定する必要があります。分野の指定には国際特許分類(IPC)または日本固有の特許分類であるFI を指定するのが一般的。今回の例では「IPC」を選択しました。
例えば、IPC でのコンピュータ関係の大分類G06 の中に、G06N「特定の計算モデルに基づくコンピュータ・システム」があります。このコンピュータ関係の大分類G06Nは、以下の小分類を包含しています。
そのまま検索すると、「検索結果が3000件を超えたため表示できません」と表示されます。ですから、もう少し絞り込んで再度検索してみましょう。公知年などで絞る方法もありますが、今回は「生物学」というキーワードをANDで追加して検索してみることにします。
すると、以下のような検索結果が表示されました。
IoT 関連技術について網羅的に検索する場合
では次に、IoT(Internet of Things)関連技術について検索してみましょう。
通常、分野を指定するときには次のどちらかを指定するのが一般的です。
- 国際特許分類(IPC)
- 日本固有の特許分類であるFI
しかし、IoTの応用分野は多岐にわたっており、IoTの分野に1対1に対応する国際特許分類(IPC)またはFIがありません。
横断的な分類であるファセット分類記号(ZIT)が新設されたのは平成28年11月です。IoT(Internet of Things)関連技術に関して、日本の特許文献に対してIoTの全範囲に付与されるようになりました。
更に平成29年4月24日から、IoT関連技術の特許分類(ZIT)を下記の12の用途別に細分化されています。
- 農業用・漁業用・工業用:ZJA
- 製造業用:ZJC
- 電気、ガスまたは水道供給用:ZJE
- ホームアンドビルディング用・家電用:ZJG
- 建設業用:ZJI
- 金融用:ZJK
- サービス業用:ZJM
- ヘルスケア用・社会福祉事業用:ZJP
- ロジスティック用:ZJR
- 運輸用:ZJT
- 情報通信業用:ZJV
- アミューズメント用・スポーツ用・ゲーム用:ZJX
これにより、IoTという新しい分野の関連技術に関しても特許情報の収集・分析を用途別にも行うことが可能になりました。
では、実際にIOT の全範囲で特許権を網羅的に検索してみましょう。例として、検索項目に「ファセット」、検索キーワードに「ZIT」と入力します。検索ボタンを押すと、国内文献ヒット件数が表示されます。
なお、他の広域ファセットとして、以下のものがあります。
- ZAA 超伝導に関するもの
- ZAB 環境保全関連技術に関するもの
- ZBP ・生分解性ポリマー
- ZDM 特許査定された出願が、人間の身体の各器官の構造・機能を計測するなどして人体から各種の資料を収集するための方法※に該当する請求項に係る発明を含むもの
- ZHV ハイブリット自動車〔エンジンと走行駆動源としての電気モータとの双方を備える自動車〕
- ZMD 特許査定された出願が、用法又は用量の点で新規性が認められる医薬発明
※に該当する請求項に係る発明を含むもの(※特許・実用新案審査ハンド - ブック附属書B 第3 章2.2.2(3-2-2)に記載の「特定の用法又は用量で特定の疾病に適用するという医薬用途において相違する」として新規性が認められる医薬発明)
- ZNA 核酸/アミノ酸配列に関するもの
- ZNM ナノテクノロジー応用技術
- ZYW 車両のヨー方向運動制御〔ヨーレート、スリップ角、ステア特性等〕
今回も「検索結果が3000件を超えたため表示できません」と表示されたので、検索オプションを使用して絞り込みましょう。例として、日付指定で比較的新しいものを検索してみることにしました。
すると、画面5のような検索結果が表示されます。
検索結果には、次の2種類が混在することになります。
- 特許権が付与された特許公報
- 未だ特許権が付与されていない出願段階の特許出願公報
特許権が付与された特許公報は、左から3番目の項目の「文献番号」が「特許」から始まり、特許の後に7桁の番号が続きます。
例:特許○○○○○○○
一方、出願から1年半後に公開される特許出願公報は、左から3 番目の項目の「文献番号」が「特開」から始まり、公開された年が西暦、ハイフン、6桁の番号と続きます。
例:開○○○○-○○○○○○
クリアランスとして必要な情報は、「特許請求の範囲」です。特許権が付与された特許公報に記されている特許請求の範囲に基づいて、抵触しているかどうかを判断します。
一方、出願段階のものについては特許請求の範囲が補正によって変わる可能性があります。ですから、自社に関係のありそうなものに関しては今後も継続して確認してください。
高度な検索
実は、更に高度な検索を行う方法もあります。それは商用ソフトを使用するという方法です。但し、商用ソフトを用いた調査については、高い専門性が必要ですし、有償になり安くても月数万円はかかります。ですから、自社でソフトを購入するよりも、外部の弁理士に依頼するのがおすすめです。
商用ソフトを使った検索を行うことで、漏れがないように高度な特許文献を抽出することができます。クリアランス調査では漏れがないことが重要です。そんな時には、弁理士に相談してみてください。
クリアランス調査のまとめ
今回は他社の特許権を侵害しているか否かを調査する「クリアランス調査」について詳しく解説しました。
クリアランス調査は、特許庁が提供している特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)や商用ソフトを用いることで、以下の2点について検索することが可能です。
- 他社の特許権が付与された特許公報
- 未だ特許権が付与されていない出願段階の特許出願公報
クリアランス調査では、自社製品・サービスが上記の2点について特許請求の範囲の各請求項に記載された各構成を全て満たすかどうか判断します。
ただし、クリアランス調査での判断は非常に困難な場合が多いので、外部の弁理士に相談するのがおすすめです。
また、未だ特許権が付与されていない出願段階の特許出願公報の各請求項に関しては非常に判断が難しいと言えます。それは、特許請求の範囲が確定されたものでは無いからです。拒絶理由によっては権利範囲を狭く補正する可能性もあるので、更に判断が難しくなります。
ですから、未だ特許権が付与されていない出願段階の特許出願公報の各請求項については、今後特許権を侵害するリスクがあるか否かということを、継続して監視(ウオッチ)していきましょう。
もし、他社の特許請求の範囲に記載された各構成を全て満たす特許権がある場合は以下の点を検討してください。
- 自社製品の設計変更ができるかどうか
- 特許が無効にできないかどうか
- 先使用に係る通常実施権(先使用権)を主張できないかどうか