AIを使ったサービスはこれからもどんどん増えると思いますよ!
ということで今回は、AI技術の知財面で注意することに関して、「特許の有効性」、「OSSライセンス」、「データの秘密管理」の3つの観点から解説します。
なお、人工知能(AI)が特許権や著作権で保護されるかは、他の記事で詳しく解説しているので下記リンクを参考にしてください。
質問者 最近は人工知能(AI)を用いた新サービスがどんどんリリースされてきていますよね。 酒谷弁理士 そうですね。これからも、人工知能(AI)を使ったサービスは増えそうですね。 質問者 […]
また、人工知能(AI)を利用したビジネスを特許でどうやったら保護するかを、他の記事で仮想事例を用いて解説しているので下記リンクを参考にしてください。
質問者 今度、人工知能(AI)を使用した新しいサービスをリリースしたいのですが・・・ 酒谷弁理士 それはいいですね! 質問者 特許で保護されるかが心配です。AI分野での特許はどのような状[…]
AI(人工知能)について
AI技術において競争力を維持・向上させるために、AI技術を知財面で適切に保護することが必要です。そこで、AI特許を分類して、分類毎にその保護の仕方について説明します。
そしてその後に、AIの開発において知財面で注意する点について説明しましょう。
AI特許の分類
AI技術の発明には、大きく分けて次の2つに分かれます。
- AIのアルゴリズム自体に特徴があるもの
- AI技術を新たな用途に使用する発明
では、それぞれについてもう少し詳しく見ていきましょう。
AIのアルゴリズム自体に特徴があるもの
AIのアルゴリズム自体に特徴があるものについては、アルゴリズムが新しければ、特許になる可能性が高いものの、内部のアルゴリズムであるため、侵害の立証が容易ではないという問題があります。
よって、AIのアルゴリズムの発明については特許出願せずに、営業秘密として秘匿化し、社内で厳重に管理することがお勧めです。
それに合わせて、他社がそのAIアルゴリズムの特許を取ってしまっても、自社がそのAIアルゴリズムを用いたビジネスを継続できるように、先使用権の確保のための対策をしておく必要があります。
また、アルゴリズムとは無関係ですが、特許を取らずに営業秘密にしている例として、「コカ・コーラの原液のレシピ」などがあります。
AI技術を新たな用途に使用する発明
もう1つは、AI技術を新たな用途に使用する発明です。この場合、アルゴリズムは既存のものを使用します。
とはいえ、用途が新しいのでAIに入力される入力データと、AIから出力される出力データとの組が従来なかったものになります。このAI技術を新たな用途に使用する発明については、請求項では次の2点を記載することになります。
- 入力データ
- 出力データ
このようなAI技術を新たな用途に使用する特許権を取得できた場合、第三者のサービスの内部のアルゴリズムが分からなくても、
入力データと出力データの組み合わせが分かれば、特許権の侵害の立証ができる可能性があります。
仮に競合他社が自社の発明と同じ発明について特許権を取得し、自社のサービスがその特許権の権利範囲に入る場合には侵害状態となりえます。そして、その特許権の権利範囲外になるように設計変更できず且つその特許の無効化もできないという最悪の場合には、その事業から撤退しなくてはいけない可能性があります。
よって、AI技術を新たな用途に使用する発明については、基本的には競合他社が出願するより前に出願できるよう、なるべく早く特許出願するほうがよいと思われます。
AI技術において知財面で注意する点
- 特許の有効性の確保
- オープンソースソフトウェア(OSS)ライセンスについて
- トレーニングデータに価値があるなら特許ではなく秘密情報として社内で管理
AI特許の有効性の確保
一番気を付けなければならないことは、出願するAI特許の有効性の確保です。特許の出願時及び権利化過程では、次の要件を十分満たしているかをチェックします。
- 先行文献による新規性・進歩性の確認
- 明確性要件
- 実施可能要件
ですから、有効性が危うい場合、それだけ無効審判などで特許を無効化されてしまうリスクが高まります。
AIアルゴリズム特許
ほとんどのアルゴリズムは、今や古典的なものになってしまいました。ですから、AIによるアルゴリズムで類似しているものに関しては、すでに特許を取られている可能性があります。
さらに、先行例で似たようなアルゴリズムが開示されていて、評価対象の特許と先行例の違いが「AIのアルゴリズム」だけの場合は有効性を疑うべきです。
先行例との違いが明確でなければ、評価対象の特許には進歩性がないとして無効になる可能性があります。繰り返しになりますが、有効性が危ういと、それだけ無効審判などで特許を無効化されてしまうリスクが高まりま す。
AI技術を新たな用途に使用する特許
AI技術を新しい用途に使うというような特許は、進歩性に欠けることがあります。
これも1つ目のポイントに似ていますが、すでに「新しい用途」が先行例で開示されている場合は進歩性に欠ける場合があるので、特許が取得できない可能性があります。
オープンソースソフトウェア(OSS)ライセンスについて
次に確認する点は、オープンソースソフトウェア(Open Source Software:略してOSS)ライセンスです。
質問者 新しくAI(人工知能)を使ったシステムを開発しようとしているのですが、どうするのがおすすめですか? 酒谷弁理士 オープンソースソフトウェア(OSS)ライブラリを利用することをおすすめします。OS[…]
特許を取っていても、AIが使われた商品やサービスに特定のオープンソースソフトウェア(OSS)が使われていると、そのライセンス規約上、OSSを使用している技術については他社に特許権を行使することができない可能性があります。
ですから、そうなる前にライセンス規約を確認しなければなりません。
また、OSSのライセンス形態の中で特に注意しなくてはいけないのが、「コピーレフト型」と呼ばれるライセンスです。
コピーレフトとは、「著作権は保持しつつも、二次的な著作物も含めて、すべての人が利用、改変、再配布できるべきである」という考え方を表す言葉です。
代表的なコピーレフト型ライセンスとしては、次のようなものが知られています。
- GPL
- LGPL
- CPL
コピーレフト型のOSSライセンスでは、「改良・再配布された派生物も元の著作物と同じ条件で配布しなければならない」とされています。
例えば、ある開発者がOSSを元にソフトウェアを改良した場合でも、配布する際にほかのライセンス条件に変えることはできません。
また、コピーレフト型ライセンスを持つOSSを改変した場合には、ソースコードを公開することが義務付けられています。
よって、コピーレフト型ライセンスを持つOSSを改変したものを、対象会社がアプリまたはサーバの処理で使用している場合には、OSSによっては、そのソースコードを公開しなければならないと規定されている場合(例えばGNU AGPLの場合)があります。
その場合には、他社はそのソースコードをコピーすることが可能になり、他社が簡単に同様のサービスを展開できてしまいます。
すでにAIを使った商品やサービスがある場合は、どのようなオープンソースソフトウェア(OSS)が使われていて、それぞれどのようなライセンス規約なのかをチェックする必要があります。
トレーニングデータに価値があるなら特許ではなく営業秘密として社内で管理
AIの善し悪しは、AIを教育する学習用データの質によって大きく変わります。しかし、AIのアルゴリズムや用途と違い、学習用データは特許では守れません。
その理由はトレーニングデータ自体はデータであり、発明の要素というものがないからです。トレーニングデータに価値がある場合、特許ではなく営業秘密として社内で管理・運営していく必要があります。
学習用データそのものではなく、学習用データの選び方や学習用データの洗練方法の場合、方法特許をとれるかもしれません。しかし、そのような方法特許の侵害を立証するのは難しいので、学習用データの選び方等も営業秘密として社内で管理・運営していったほうがいいでしょう。