もしかして、こういう場合って特許が取れなくなるのでしょうか?
今回は新しく開発した発明を公の場で知らせてしまったという場合でも特許が取れるのかどうかということについて、公知の概念も踏まえて解説します。特許出願を検討される場合には、是非参考にしてください。
公知とは?重要なのは守秘義務!
公知とは、公然と知られた状態のことを指します。つまり、守秘義務のない人にその内容が知られたという場合です。例えば、新しい発明を開発した会社の社員などは、直接開発に関わっていない場合でも「守秘義務がある者」に該当します。
日本では、守秘義務のある者に知られても公知とは見なさないので、新製品を社内で発表する場合など守秘義務のある人に向けては発表する場合には、その発明は公知とはみなされず、特許法でいう新規性が喪失しません。
では、その対象が守秘義務のない人だった場合はどうでしょうか?例えば、新製品発表会に外部の人を招待している場合などは守秘義務のない人にも知らせることになります。
このような場合は、その発明は公知と見なされるので新規性を失うと言えるでしょう。
但し、例外もあります。それは、社外の人であっても守秘義務がある場合、すなわち、秘密保持契約(NDA)を結んでいる場合です。
自社技術の内容を第三者に秘密にする秘密保持契約を結んでおけば、発明を含む自社技術の内容を他社に開示した場合でも特許法上では公知にはなりません。ですから、このような場合には新規性が維持されます。
では、秘密保持契約(NDA)とはどういったものでしょうか。詳しく解説していきましょう。
秘密保持契約(NDA)とは?
企業同士が協力して業務に取り組む業務提携や出資を受ける際には業務に関することを話さなければなりません。しかし、別の会社だからと言って自社技術が外部に漏れるようなことがあっては困ります。
もちろん、これから特許出願しようとしているような新しく開発した発明について話す必要もあるでしょう。そんな時に企業間の取り決めとして秘密保持契約(NDA:Non-DisclosureAgreement)を結んでおくことが非常に重要です。
秘密保持契約とは、自社技術の内容が漏洩しないように、自社技術の内容を第三者に漏洩することを禁じることを目的とした契約です。
実は、秘密保持契約を結んでいない状態でその発明を他社に開示した場合でも、新規性喪失の例外の規定の適用を受けることが可能である場合もあります。
他社に開示した時から1年以内なら新規性喪失の例外!
守秘義務がない他社に発明を教えた場合は公知となるので、特許を取得する場合には新規性という点に影響があると前述しました。しかし、その発明を他社に開示した時から1年以内であれば、新規性喪失の例外の規定の適用を受けることが可能です。
新規性喪失の例外の規定に関しては別記事で詳しく解説しているので、下記リンクを参照してください。
質問者 ある製品の特許を取得できないかと思っているのですが、ちょっと問題が・・・ 酒谷弁理士 どうしたんですか?新しいアイディアなら特許出願してみてはどうでしょう? 質問者 それが、既に[…]
ですから、日本、米国、韓国では特許を取得できる可能性があります。但し、欧州、中国での特許出願においては原則、新規性喪失の例外の規定に適用を受けることができません。
新規性を喪失しないようにする対策
上記のように、秘密保持契約(NDA)は非常に重要な役割を果たします。
今後、あなたの職場で新しい技術やビジネスオペレーションを開発し、その発明を他社に開示する必要性が出て来る場合もあるかもしれません。また、何らかの事情があり、他社に新しい技術を紹介することも考えられます。
そのように情報開示の必要がある場合は、情報開示前に秘密保持契約(NDA)を結んでおきましょう。
重要なのは、原則、特許出願前に発明を教えてよいのは守秘義務がある人だけということです。守秘義務のある人を対象として話すぶんには、例え多くの人に向けて発表したとしても公知にはなりません。
しかし、中には意識の低い社員もいるので注意が必要です。発表の内容を聞いた社員が、その発明を守秘義務のない他社の者に話した場合、その発明は公知になり新規性を失ってしまいます。
ですから、社内全体で会社の利益を守るという意識を持って、守秘義務の重要性について理解してもらうことが重要です。