



共同開発は特に中小企業の事業拡大に有効な手段です。しかし、自社だけで開発する場合と比較すると、注意しなければならないことが非常に多くなります。
今回は共同研究を開始する前にどのような準備をしておくべきかということについて詳しく解説しました。これから共同開発を行うという場合には、非常に参考になると思いますので、是非最後までご覧ください。
共同開発の活用


中小企業の最大のメリットは小回りが利くことではないでしょうか。ですから、その利点を活かし、特殊技術を持つ中小企業同士が共同開発を行うということは、事業拡大の大きな足掛かりとなります。
企業それぞれに得意分野というものはあるはずなので、それぞれの得意分野を融合することで、今までになかったような革新的な技術が生まれる可能性に期待できます。
また、企業に限らず大学との共同開発を行っている企業は非常に多いので、視野を拡げて検討してみるのもおすすめです。
但し、共同開発には少なからずデメリットも存在します。
問題となるのは、開発の成果と得られる利益をどのようにシェアすべきかという部分です。ですから、共同開発に参画する企業がウィンーウィン(WIN-WIN)の関係となるような共同開発契約を締結することが非常に重要となります。
また、共同開発を進める前に、秘密保持契約(NDA)を結んだ上で重要な情報が外部に漏えいしないようにすることが重要です。秘密保持契約については、別記事に詳しく記載していますので、下記リンクを参照してください。
質問者 展示会に出展してから、色々な会社から引き合いを頂けるようになりました。展示会のメリットは凄いですね。 酒谷弁理士 それは良かったですね。大成功ですね。 質問者 他社との引き合いで[…]
また、共同開発で発明が発生した場合には特許や意匠の出願をすることになります。しかし、共同開発では知財関連の出願時にも両者間で問題となる部分があるので、特許出願前や意匠出願前に共同出願契約を結んでおくことをおすすすめします。
共同出願契約では、以下の内容を取り決めなければなりません。
- 出願の対象となる発明の特定
- 発明者を定める
- 出願人を定める
- 手続き主体・費用分担
- 当該発明の特許を受ける権利の帰属・持分を定める

では、共同開発の流れについて、見ていきましょう。
共同開発の流れ
共同開発の流れは次のような手順となります。
- ステップ1秘密保持契約
- ステップ2共同開発の合意
- ステップ3共同開発契約
- ステップ4発明の誕生
- ステップ5共同出願契約
- ステップ6特許出願
共同開発を進める場合の対応方法
共同開発の際は相手によって対応すべき事項が異なります。ですから、その都度、対応方法を考え、その相手に合わせた対応をしなければなりません。
表1に共同開発を進める際に必要となる対応についてまとめました。
業種の組み合わせ | 対応方法 |
---|---|
甲:装置メーカ 乙;部品供給メーカ |
甲の立場では、乙以外の部品メーカからも共同開発の対象部品の供給を受けられるようにしたい。一方、乙の立場では、共同開発の対象部品については、他の部品メーカによる製造および甲への供給は好ましくなく、 また共同開発の対象部品を甲以外の装置メーカにも販売したい。よって、例えば、甲乙間で、「一定期間は、甲は乙から独占的に部品を購入する。一定期間経過後は甲乙共に自由に各々の製品および部品の製造販売ができる」といった条件設定を検討する。 |
甲:自社で販売したいメーカ 乙:販売会社 |
共同開発のため、乙が独占販売を要求しても甲は拒否することは可能であるが、乙も共同開発者なので、独占期間の設定など条件設定を検討する。 |
甲:メーカ 乙:大学等の研究機関 |
乙は研究機関であり自ら製造・販売を行うことはないため、実施をしない代わりに甲の製造販売による利益から対価を受ける補償(不実施補償) を甲に求める場合があるが、甲は、不実施補償が将来の過度な負担とならない条件設定を検討する。なお、特許訴訟または無効審判がおきた場合を考慮して、乙の協力が得られるように、乙が特許訴訟及び無効審判に参画することを義務付けておくようにする。 |
甲:装置メーカ 乙:装置メーカ |
基本的には、甲と乙がそれぞれ単独で完成させた発明は単独出願、共同でなした発明は共同出願(権利の持ち分は5分5分)であるが、当事者間で自由に取り決めが可能です。 |

共同開発時の事前取り決め事項


前述しましたが、共同開発を行う場合には様々な問題や当事者間の争いなどが発生します。ですから、共同開発契約書にはリスクを避ける為の必要事項を記載しておく必要があります。
特に、将来生じる研究成果(発明)の帰属・持分の割合という部分に関しては、双方が納得できるような内容を規定することが重要です。もし、何の取り決めも無い状態で共同開発を開始してしまった場合、発明の全てを他社に取られてしまうことも考えられます。ですから、共同開発契約を締結する前に、共同研究成果の権利の取り決めをしておかなければなりません。特に研究成果(発明)の権利の帰属・持分の割合に関してはよく考えて記載しておきましょう。
表2は、共同開発契約書に入れることを検討すべき条項をまとめたものです。参考にしてください。
項目 | 内容 |
---|---|
共同開発の対象 | 共同開発の対象を取り決める条項 |
共同開発の分担 | 共同開発における各当事者の役割分担を規定する条項 |
共同開発の実施の仕方(手続)についての規定 | 開発テーマやスケジュールの具体的な内容を定める際に、話を進める上で最低限必要な程度に手続きの流れを規定する条項 |
バックグラウンド情報の定義 | 契約締結時に既に自己が保有している情報(バックグラウンド情報)のうち相手方に開示する情報の定義を定める条項 |
秘密保持義務 | バックグラウンド情報、及び共同開発による成果情報を秘密に保持する義務(秘密保持義務)を規定する条項 |
目的外使用禁止義務 | バックグラウンド情報を本開発の実施以外の目的での使用の禁止を定める条項/td> |
出願禁止義務< | バックグラウンド情報に関し特許等の出願の禁止を定める条項 |
分析禁止義務 | バックグラウンド情報にサンプル等の有体物が含まれる場合には、サンプル等の分析やリバースエンジニアリングの禁止を定める条項 |
研究成果の帰属・持ち分の割合 | 研究によって得られた有体物及び知的財産権(主に特許権)の帰属・持ち分の割合について規定する条項。帰属や持ち分は、契約当事者間でのパワーバランスによって変わりえます。 |
開発途中でできた改良技術の取り扱い | 開発途中でできた改良技術の知的財産権(主に特許権)の帰属・持ち分の割合等について規定する条項 |
事業化の取り決め | 事業化するときの役割分担などについて規定する条項(例えば、甲が所定の期間、乙から研究成果物である材料を購入しなければならず、乙は所定の期間、甲以外の第三者に対象製品の材料として販売してはならないなど、当事者間で研究成果物を利用した事業化の際に守るべき規定)開発失敗時の責任負担、開発失敗時の金銭的な負担を規定する条項 |
競業避止規定 | 共同開発期間中は、少なくとも他の第三者との間で共同開発を、同一の開発テーマ及びこれと類似する開発テーマについて共同開発することを禁止する規定 |
契約の終了 | 契約の終了を、契約期間もしくは開発の進捗で定める条項 |
契約解除・終了後の取り扱い | 契約解除・終了後においても、開発した技術、互いに提示した営業秘密についての秘密保持義務を規定する条項 |
紛争時の措置 | 紛争時の解決方法について規定する条項 |
損害賠償 | 共同開発の結果、相手方に損害を与えた場合の損害賠償金について規定する条項 |

共同出願時の事前取り決め事項


共同開発で新たな技術が生まれ、特許出願・意匠出願することがあります。特許出願前・意匠出願前には、共同出願契約を結んでおくことをおすすめします。
共同出願契約書に入れることを検討すべき条項として、表3にまとめたので参考にしてください。
項目 | 内容 |
---|---|
権利の帰属・持分の割合 | 特許を受ける権利及び特許権の帰属・持分の割合を規定する条項 |
手続きの主体 | 手続きの主体、他方の当事者の関与権、通知・承諾等のプロセスを規定する条項 |
費用割合 | 費用負担を規定する条項 |
日本国以外の国に出願する場合の取り扱い | 日本国以外の国に出願する場合の取り扱いについて定める条項 |
改良発明の取り扱い | 改良発明の帰属もしくは一方当事者がした改良発明について他方当事者に対してライセンスすることなどを規定する条項 |
持分譲渡の取り扱い | 競合他社への持分譲渡を制限する規定 (仮に持分の譲渡の同意を認める規定が入っている場合には、特許法73条1項の「他の共有者の同意」による持分譲渡と解釈される可能性があるので、そのような条項は削除することが望ましい) |
第三者に対する実施権許諾 | 第三者に対する実施権許諾について規定する条項 |
不実施補償 | 共有特許において、実施主体(企業)が実施したときに、非実施主体(大学)に対して支払うべき金銭(不実施補償)について規定した条項 |
