今回は商品形態模倣と特許権・意匠権の関係なども踏まえ、自社でオリジナルの形態の商品を開発した場合の模倣品(コピー商品)対策について解説します。是非参考にしてください。
商品形態模倣は禁止!損害賠償の対象となる?
競合他社の商品を模倣して製造・販売をした場合、商品の差止め・損害賠償請求の対象となります。
これは、不正競争防止法2条1項3号に定められているように、「他人の商品の形態を模倣した商品」「商品形態模倣の不正競争行為」に該当する不正競争行為です。
模倣した商品か否かという判断基準は以下になります。
- 他人の商品の形態に依拠している
- 実質的に同一の形態の商品を作り出す
ただし、商品の差止め・損害賠償請求の効力は『不正競争防止法19条1項5号イ』に定めれれている通り、オリジナルの商品が日本国内で最初に販売されてから3年間です。
ただし、オリジナルの商品の新商品に関する機能について特許権を取得していない場合については、形態が異なれば販売が可能となります。
具体的な例を見てみましょう。
下記は東京地判平成11年6月29日「ファッション時計事件」判決の抜粋です。この判示を読むと、実質的に同一か否かの判断基準がよくわかります。
問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても、その相違がわずかな改変に基づくものであって、商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見て些細な相違にとどまると評価される場合には、当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。これに対して、当該相違部分についての改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに、当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて、当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような場合には、両者を実質的に同一の形態ということはできない。
すなわち、実質的に同一か否かの判断基準をまとめると、以下のような場合は、当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態と判断されます。
- 問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても、その相違がわずかな改変に基づくものである
- 商品の全体的形態に与える変化が乏しい
- 商品全体から見て些細な相違にとどまる
自社でオリジナルの形態の商品を開発した場合の検討事項
それでは、逆に、自社でオリジナルの形態の商品を開発した場合には、どのような検討が必要でしょうか?
検討するべき項目は次の3点です。
- 商品形態模倣と意匠権の期間の比較
- 商品形態模倣と意匠権の保護範囲の比較
- 販売前の特許出願の検討
では、具体的に解説しましょう。
商品形態模倣と意匠権の期間の比較
不正競争防止法2条1項3号に定められている通り、日本国内においては販売禁止期間がオリジナルの商品販売開始から3年間です。
しかし、意匠権の保護期間は出願日から25年間(2019年以前は20年間)となっています。つまり、不正競争防止法の販売禁止期間よりもかなり長いからです。ですから、できるだけ早い段階で新しく販売する商品の意匠出願することをおすすめします。
特に以下のような製品の場合には積極的に意匠出願した方が良いでしょう。
- 製品のライフサイクルが3年以上
- 販売後の模倣が懸念される商品
しかし、製品のライフサイクルが短い場合には、意匠登録が必要なのか否かをよく検討することをおすすめします。
商品形態模倣と意匠権の保護範囲の比較
もう一度、模倣した商品か否かということについて考えてみましょう。
前述した通り、他人の商品の形態に依拠した場合については商品形態模倣に該当します。しかし、他人の商品の形態に依拠していない場合については「模倣」ではありません。この場合、偶然同じような商品形態になってしまったと言わざるを得ないからです。
競合メーカーの商品開発はどうしても形態が似通ってしまう可能性があるので、このような偶然が無いとは言い切れません。ですから、この場合は不正競争防止法2 条1項3号の「商品形態模倣」では無いと判断される可能性があります。
しかし、実質的に同一の形態であれば「模倣」という判断になるでしょう。例えば、オリジナルの商品に若干の変更を加えただけということが明らかな場合です。重要なのは同一の形態という部分であり、不正競争防止法の保護範囲についても「同一の形態」となります。
では、意匠権の場合はどうでしょうか。
意匠権における権利範囲は形態が類似していることが要件です。つまり、不正競争防止法のように「他人の商品の形態に依拠する」ということは関係ありません。
また、「類似」の範囲は通常は実質的に「同一の形態」の範囲よりも広くなります。よって、できる限り意匠出願することをおすすめします。
販売前の特許出願の検討
では、続いて特許出願について考えてみましょう。商品形態模倣と特許権の保護対象はどのような違いがあるのでしょうか。
わかりやすく、自動車のタイヤを例に挙げて解説しましょう。
タイヤはリング状の形態となっていることは周知の事実です。これはタイヤがシャフトの回転に応じて回転する必要があるので、不可欠な形態となります。ですから、タイヤの形態がリング状ということに関しては商品形態模倣にいう「商品の形態」から除外されます。
それは何故でしょうか。それは、タイヤの形態が「商品形態模倣」に該当したら、一定の機能を有する商品を特定の者に独占させることになってしまうためです。ですから、そのような形態は商品の形態の対象とはなりません。
これは不正競争防止法2条1項3号に定められている内容です。ですから、当該商品の機能を確保するために不可欠な形態は、商品形態模倣にいう「商品の形態」から除外されることになります。
つまり、このような場合は不正競争行為には該当しないということです。
なお、意匠法5条3号には物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる形態については、意匠権を取得することはできないことが規定されています。
では、特許権についてはどうでしょうか。
特許権は、特定の機能を有する形態について保護対象としています。ですから、下記のような場合には特許を取得できる可能性があります。
- その形態または構造が従来にないもの
- 従来と比べて格段優れた効果または従来にはない異質な効果を発揮するもの
形態または構造について特許を取得すれば、少し異なる形態についても機能が共通していれば、保護対象になりえます。
また、意匠権では、他社の製品(イ号製品:裁判では、被告製品をイ号製品と表現します)の形態が類似していることが必要ですが、特許の場合には形態の類似は必ずしも必要ではありません。請求項で表される発明の技術的範囲に含まれてさえいれば、形態が非類似のものまで保護対象になりえます。
商品形態に関する知財戦略
上記を踏まえて、商品形態に関する知財戦略を考えてみましょう。
まず、デッドコピー品の製造・販売は日本国内では不正競争防止法によりできないことになっています。逆に、オリジナルの自社商品が模倣される可能性もあります。
ですから、オリジナルの商品を販売する前には特許権及び意匠権の取得を検討すべきでしょう。その商品が機能に特徴があるものなら、なおさらです。なぜなら、不正競争防止法では該商品の機能を確保するために不可欠な形態については、保護対象外になっているからです。
また、商品形態模倣(不正競争防止法2条1項3号)の禁止期間が発売から3年間ということもあり、ライフサイクルが長い商品(ロングラン商品)については、積極的に意匠権・特許権の取得をおすすめします。
意匠権・特許権の取得をおすすめする理由は保護期間が長いからです。