医薬品などは開発が完了しても、安全に使用できるのか否かを外部機関(PMDA:独立行政法人医薬品医療機器総合機構 )が審査することになります。ですから、特許登録が完了されていても承認がおりていない場合には販売できない期間が発生してしまいます。このような特許権を保有して独占的に販売できるはずなのに独占的に販売できない期間を補填するために特許権の延長登録という制度があります。そこで、今回は特許権の延長登録がどのような制度なのかということについて詳しく説明します。
医薬品における特許権の延長登録申請
医薬品などにおいても他の分野と同じように、新しい技術を使っているということで特許出願を行う場合があります。しかし、医薬品の場合は他の分野と違い、特許が登録されても新薬の承認が下りなければ実施することができません。
ですから、せっかく特許を取得したにもかかわらず、時間だけが経過していくという状況になる可能性もあります。そのような場合には、特許権の延長登録申請が可能です。
具体的には、その侵食されてしまった期間分の補填として、その新薬の承認にかかった期間だけ特許期間を延長することができる制度となっています。
但し、延長登録申請については、国毎に扱いが異なっていますので注意が必要です。ここでは、日本と米国について説明します。
日本における特許権の延長登録申請
日本における医薬品の特許権の延長登録申請について、表1にまとめました。
延長の対象 | 医薬品・農薬・体外診断薬・再生医療製品が該当。 |
延長可能な特許 | 承認された製品に関するすべての特許(物質特許だけでなく、製法、用途、製剤、用法・用量などで限定された特許も含む) が延長可能 |
延長の態様 | 物質特許を複数の用途に使用する場合、用途毎に新薬の承認にかかった期間について5年を限度に延長登録を申請可能 |
米国における特許権の延長登録申請
米国における医薬品の特許権の延長登録申請について、表2にまとめました。
延長の対象 | 医薬品・医療機器・食品添加物・着色料が該当 |
延長可能な特許 | 1つの製品と関係のある特許のうち特許権者が選択した特許について延長可能 |
延長の態様 | 1回に限り延長登録が可能 但し、用途については、その後の新たな承認で加わった用途についても延長される |
延長可能な特許として、通常は権利範囲が最も広い物質特許について延長されることになる場合が多くなっています。
また、その後の新たな承認で複数の用途が加わった場合、物質特許も同じ期間だけ特許期間が延長されることになります。
医薬品の保護期間を延ばす戦略
日本におけるヒト用医薬品については、データ保護期間が4~10年あるので、その間は自社製品が保護されることになります。
データ保護期間は、先に販売認可された業者が持つ(前)臨床試験に関するデータが保護される期間のことです。ですから、データ保護期間・特許の保護期間を組み合わせて、最も保護期間が長期に得られるような戦略を考えることが重要となります。
また、データ保護期間は表3のように国毎に異なっている点に注意しなければなりません。
日本 | 米国 | 欧州連合 | |
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データ保護期間 | 4~10年(医薬品医療機器等法による再審査期間) | 新規の医薬化学物質は5年、医薬品の新規適応は3年、生物学的製品は12年 | 8年(販売の独占に+2年、新規適応に+1年) |
出典:厚生労働省医薬食品局審査管理課「再審査制度・再評価制度について」
特許の保護期間を後ろ倒しにする方法
医薬品の保護期間を延ばす方法として、保護期間を後ろ倒しにする方法もあります。
特許の保護期間を後ろ倒しにする方法は次の手順です。
先の特許出願から1年以内に、パリ優先権(または国内優先権)を主張した国際特許出願(PCT出願)または各国出願をする
日本及び米国では、特許期間が現実の出願日から20年となっています。ですから、上記の方法により、特許の保護期間を最大で1年間後ろ倒しにすることができます。
特許期間が切れるまでは、自社の製品を保護することが可能です。つまり、ジェネリック医薬品メーカは、当該特許の権利範囲に含まれるジェネリック医薬品を販売できません。
結果としてジェネリック医薬品メーカの販売開始タイミングが遅くなるので、その期間についても更に当該特許に係る医薬品の利益を独占することができます。