今回は商標権について解説します。商標権とはどういう権利なのか、そしてどのような効力があるのかということを一緒に見ていきましょう。
商標権とは
商標権ってどういうものですか?
あなたが普段の生活において、何らかの商品の購入・サービスの利用をするときに、何気なく目にしている企業のマークや商品・サービスのネーミングは商標権を取得している可能性が高いでしょう。
実は、商品やサービスの商標は目印とすることができ、企業のイメージ戦略としても利用できます。なぜなら、消費者の信用をコツコツ積み重ねることによって信頼を勝ち取ることができ、それが商標のイメージとなり得るからです。
商標を見て「安心のマーク」という認識をされることで、商標が商品やサービス、そして企業の顔となります。
そのような商品やサービス・企業の財産として「マーク」や「ネーミング」の権利を守るのが「商標権」という知的財産権です。
商標と似ているものに商号というものもありますが、性質は全く違うものとなります。商号は個人事業主や会社が営業を行う際に自己を表示するために使用する名称なので、「マーク」や「ネーミング」を使用することはできません。
では、具体的にどのような商標があるのか見てみましょう。
商標の種類
商標は大きく分類すると以下のような5つのタイプになります。
- 文字だけの文字商標
- 図形だけの図形商標
- 文字と図形を結合させた結合商標
- 立体的形状の立体商標
- 上記を組み合わせたタイプ
具体的な商標の例を図1に掲載しましたので参考にしてください。
- 「三菱」:三菱商事(株)の登録商標
- 「TOYOTA」はトヨタ自動車(株)の登録商標
- 図形商標の左側:三菱鉛筆(株)の登録商標(商標登録第18865号より引用)
- 図形商標の右側:アップル インコーポレイテッドの登録商標(商標登録第2173459号より引用です)
- 結合商標の左側:スターバックス・コーポレイションの登録商標(商標登録第4068031号より引用)
- 結合商標の右側:(株)三越伊勢丹の登録商標(商標登第3187980号より引用)
- 立体商標の左側:(株)不二家の登録商標(商標登録第4157614 号より引用)
- 立体商標の右側:(株)ヤクルト本社の登録商標(商標登録第5384525号より引用)
また、平成27年4月から下記についても商標登録ができるようになりました。
- 動き商標
- ホログラム商標
- 色彩のみからなる商標
- 音商標
- 位置商標
もし、商標登録を受けないまま商標を使用していることがあれば、大きな問題に発展する可能性が考えられます。それは、他社が同じような商標の登録することで、その商標権の侵害にあたる可能性があるというものです。
商品・役務について
商標権は、次の2点の組合せで1つの権利となっています。
- 商標(マーク)
- その商標(マーク)を使用する商品・サービス
すなわち、商標権とは、自ら指定した商品・サービスの範囲で、商標の利用を独占できる権利です。
ですから、商標登録出願を行う際には次の2点を指定して商標登録願に記載する必要があります。
- 商標登録を受けようとする商標
- その商標を使用する「商品」又は「サービス」
商標法では、サービスのことを「役務(えきむ)」といいます。また、指定した商品のことを「指定商品」、指定した役務を「指定役務」といいます。この指定商品・指定役務によって、権利の範囲が決まります。
商標登録出願を行う際には「区分」についても記載しなければなりません。「区分」とは、商品・役務を一定の基準によってカテゴリー分けしたもので、第1類~第45類まであります。
指定商品・指定役務の記載、商品及び役務の区分についての詳細は特許庁のWEBページの類似商品・役務審査基準を参照してください。
また、個別の商品・役務の区分を調べたい場合は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)が便利です。商品・役務名リストで検索することができるので、必要な場合は利用してください。
商標権を取得するには
商標登録出願の方法
商標登録を受けるためには、特許庁に出願をすることが必要です。
日本では、先に出願した者に登録を認める先願主義という考え方を採用しています。ですから、同一又は類似の商標の出願が出る前に出願することをおすすめします。
例えば、ある製品の販売が開始され、ある程度軌道に乗ってから商標登録をするという考えは危険です。他社が類似商品を作り先に商標登録をした場合は、そちらが優先されます。
商標登録の審査
商標登録出願がなされると、特許庁では、出願された商標が登録することができるものかどうかを審査します。例えば、次のようなものは登録することができない商標となります。
例えば、以下のようなものは商標として登録することができません。
- 単に商品の産地
- 販売地
- 品質のみを表示する商標
商品「野菜」について、その箱に「北海道」という文字が記載されていても、消費者は、「北海道」の文字は「北海道産」の商品であることを表したものと認識してしまい、誰の商品かを区別することができません。したがって、このような表示は、商標登録することはできません。
イ 公益に反する商標
例えば、国旗と同一又は類似の商標や公序良俗を害するおそれがある商標(きょう激・卑わいな文字・図形、人種差別用語等)は、登録することができません。また、商品・役務の内容について誤認を生じるおそれがある商標(商品「ビール」に「○○ウィスキー」という商標)は登録することができません。
ウ 他人の登録商標と紛らわしい商標
他人の登録商標と同一又は類似の商標であって、商標を使用する商品・役務が同一又は類似であるものは登録することができません。
特に判断が難しいのが、(ウ)の他人の登録商標と紛らわしい商標です。他人の商標と紛らわしいかどうかは、以下の2点で判断します。
- 商標同士の類否
- 商品・役務同士の類否
もちろん、上記の2点が同一または類似の商品・役務、同一または類似の商標という場合は登録することができません。
しかし、難しい例もあります。特許庁のホームページに記載されたモデル事例を用いて、商標の類比判断について説明します。
モデルケースとして、「テルライト」(指定商品「デジタルカメラ」)という登録商標を既に持っている他人がいた場合において、商標「テレライト」(指定商品「ビデオカメラ」)を出願した場合を考えてみましょう。
この場合、指定商品が類似しており、更に称呼(呼び方)についても類似しているという例です。
「デジタルカメラ」と「ビデオカメラ」とは全く別の商品と言えるかもしれませんが、どちらも撮影する機材なので、類似した商品であると判断されます。
また、商標についても、「テルライト」と「テレライト」は類似している判断される可能性が高いです。ですから、総合的に商標が類似していると判断される可能性が高いです。
よって、商標「テレライト」(指定商品「ビデオカメラ」)については、既に類似商品で類似商標について他人が登録しているので、登録できないという判断される可能性が高いでしょう。
商標の類否判断にあたっては、「商標審査基準」に従って、基本的に下記の3点それぞれの要素を総合的に判断します。
- 商標の外観(見た目)
- 称呼(呼び方)
- 観念(意味合い)
また、商品・役務の類否判断は、原則として「類似商品・役務審査基準」に従って判断されます。
では、続いて商標権の効力について解説していきましょう。
商標権の効力
審査の結果、登録査定となった場合は、その後一定期間内に登録料の納付が必要です。登録料の納付をすることで、商標登録原簿に設定の登録がなされます。商標登録原簿に登録された時点で、商標権が発生するという流れです。
商標権の効力範囲としては日本国内となります。ですから、日本国内で商標権を侵害された場合には、以下の措置を取ることが可能です。
- 侵害行為の差し止め
- 損害賠償等の請求
しかしながら、海外での事業展開を予定している場合には、その国での商標権を取得する必要があるので注意してください。
商標登録がなされると、権利者は、以下の2 つの権利を保有します。
- 専用権:自己が安全に使用できる権利
自分の登録商標を、指定商品・役務の範囲で、同一の商標の使用を独占的に使用する権利 - 禁止権:他者の使用を排除できる権利
他人が登録商標の指定商品・役務と同一・類似の商品・役務について、同一・類似の商標の使用を禁止する権利
表を見て頂くとわかるように、商標が同一もしくは類似であっても、商品・役務が非類似であれば両方の商標が登録可能です。
もう少しわかりやすく、例を挙げて解説しましょう。
例えば図2のようなスマートフォンの「APPLE」と自動車販売の「アップル」の場合を考えます。この場合、商標の
- APPLE
- アップル
は称呼・観念が共通です。ですから、商標が類似すると言えます。しかし、それぞれの指定役務「スマートフォンの販売」と「自動車の販売」では、役務が類似していないので、両方とも登録できる可能性があります。
つまり、図2のように、禁止権の範囲が重複しない場合には、商標「APPLE」で指定役務が「スマートフォンの販売」の商標権者A 社は、商標「アップル」を自動車販売で使用するB 社に対して権利行使できません。
逆に商標「アップル」で指定役務が「自動車販売」の商標権者B 社は、商標APPLE をスマートフォンの販売で使用するA 社に対して権利行使できません。
なお、禁止権の範囲が重複する場合もあり得ます。では、次に禁止権の範囲が重複する場合について考えてみましょう。
図3のように商品・役務が同一もしくは類似であっても、商標が非類似であれば、両方の商標が登録され、禁止権の範囲が重複する場合があります。
この場合、商標「nelSONYarn」については、両方の商標権の禁止権の範囲に入る可能性があります。仮に両方の商標権の禁止権の範囲に入ると仮定した場合において、C 社もしくはD 社が「スマートフォンの販売」で使用したときには、互いに相手の商標権の侵害になりますので、原則、両者は商標「nelSONYarn」を使用することができません。
難しいのは、禁止権の範囲については、あくまでも他者を排除できるだけというところです。
では次に、商標権の存続期間ということについて解説しましょう。
商標権の存続期間と更新
商標権の存続期間は、設定登録の日から10年です。特許権や意匠権と比較すると短くなっていますが、更新登録の申請をすれば何度でも更新が可能です。
商標権が半永久的に更新できるのは、蓄積された信用を保護するという目的だからです。更新して半永久的に信用され続ける商標を目指しましょう。
商標の実務的なポイント
商標権は先願主義という考え方なので、考え出した人であったり、使い始めた人が優先という考えではありません。ですから、他社が先に取得してしまった商標に対して、同一または類似の商標を使用することは他社の商標権の侵害です。
そうならないように、新しく考え出した「マーク」や「ネーミング」は商標権を取得することをおすすめします。
商標権の侵害となった場合には、その商標を使用出来ないだけでなく、損害賠償請求をされる場合もあります。
また、商標登録出願の前にはその商標の使用が他人の商標権の侵害になることの無いように調べましょう。せっかく出願しても他人の商標権の侵害になってしまっては、その商標を使用すると他人の権利の侵害になるばかりか、登録可能性がないまま出願してしまうことになるので、コスト及び時間の無駄になるからです。