【起業時】考えておくべき知財戦略とその落とし穴とは?

質問者
実は、少し前から会社を立ち上げる準備をしているのですが、いろいろと忙しくて・・・
酒谷弁理士
落ち着くまでは、仕方ないですね。
がんばってください!
質問者
いろいろしなければならないことが多過ぎて。でも、やっぱり知財戦略は優先した方がいいのでしょうか?
酒谷弁理士
技術系の会社であれば、知財戦略は優先して考えておいた方がいいですね!

ということで今回は、会社立ち上げ時(起業時)における知財戦略について、「知財戦略の必要性」、「特許権の必要性の判断基準」、「特許権を取得すべき技術と秘匿化すべき技術」というの3つの観点からわかりやすく解説していきましょう。

知財戦略の必要性

知財戦略の必要性

質問者
起業する前に知財戦略まで考えておいた方が良いということですか?
酒谷弁理士
そうですね、やはり利益を上げる為にはビジネスモデルに連動した知財戦略を作成することが大切だと思います。

会社立ち上げ時には、ビジネスモデルを作成すると思います。

そして、作成したビジネスモデルで、その会社の利益を上げていくには、他社との競争に打ち勝っていかなければいけません。

そのとき、特に気を付けてほしいことは、自社の商品・サービスを他社に模倣されないようにすることです。商品・サービスが新しいものであったとしても、他社に模倣されてしまえば、途端に価格競争におちいってしまいます。そして、価格競争に巻き込まれて価格を下げたり、他の会社にシェアを奪われたりすることによって、自社の利益が落ちていきます。

ですから、せっかく新しく考えたビジネスがこのような事態にならないようにするために、

  • 他社が市場に参入するのを防ぐ
  • 他社が市場に参入したとしても、商品・サービスのコア部分を模倣されないようにすることで、顧客が自社の商品・サービスを選んでくれるようにする

などのために特許取得が必要になる場合があります。

特許を出願して内容を公開する(オープンにする)技術と、特許を出願せずにノウハウとして秘匿化する技術を、仕分けすることが知財戦略の基本になります。

質問者
「特許を取った方が良いパターン」と「特許を取らずに秘匿化しておいた方がいいパターン」があるということを覚えておく必要がありますね。

特許権の必要性の判断基準

特許権の必要性の判断基準

質問者
特許を出願するべきかかどうか、判断が難しいと思うのですが、何か判断基準があるのでしょうか?
酒谷弁理士
ある程度の判断基準はありますので、説明していきましょう。

特許権は、以下に5つに該当する物またはサービスの場合に必要性が高いといえます。

  1. 模倣が容易
  2. 第三者の出願可能性が高い
  3. 製品のライフサイクルが長い
  4. ODM生産*1
  5. 技術が使用されていることが判別容易(つまり侵害立証が容易)である

以下、これらについて順に説明します。

*1 主として台湾や中国などの企業(受託者)に見られ、製造する製品の設計から製品開発までを受託者が行う生産方式です。

模倣が容易

模倣が容易であれば、自社の商品が販売された後に、短期間で他社は簡単に同じような商品を販売できてしまいます。

質問者
価格競争に巻き込まれない為にも、模倣が容易な製品については特許を取得しておいた方が良いですね。

第三者の出願可能性が高い

第三者の出願可能性が高ければ、自社が特許出願しなかった場合に、第三者が特許出願して特許権を取得してしまうという事態が起こり得ます。

そのような事態になってしまった場合、自社は他社の特許権を侵害している状況になり、商品販売の継続が難しくなるばかりか、損害賠償リスクも抱えることになります。

質問者
他社に権利を取らせないという観点から、特許出願をしておくべきということですね。

製品のライフサイクルが長い

ライフサイクルが長い製品については、他社の参入や模倣を防ぐために、特許を取得する価値が高いといえます。

逆に製品のライフサイクルが短い場合には、特許を取得したころには、その特許技術が含まれる製品が既に時代遅れになって売れなくなっているという事態が考えられます。

しかし、近年では、早ければ特許は6か月程度で取得可能になっていることから、6か月以上のライフサイクルがある製品・サービスについては特許出願することを検討しましょう。

質問者
ライフサイクルが6か月以上の製品は特許を取得した方が良いということですね。

ODM生産

ODM生産する場合には、OEMと違って製造する製品の設計から製品開発までを受託者が行うので、受託者は、他の企業に対しても類似の製品を提供することができてしまいます。

ここで、委託者である自社がその製品の特許権を保有していれば、その技術についての製品は自社向けだけに生産し、他社向けには生産しないように、受託者をコントロールすることができるからです。

質問者
ODM生産の場合にも特許取得しておいた方が良いということですね。

技術が使用されていることが判別容易(つまり侵害立証が容易)である

技術が使用されていることが判別容易である技術については、特許権の侵害の立証が容易であることから、積極的に特許権を取得すべきです。この特許を取得していることにより、他社の侵害を容易に発見できるからです。

他社もその特許権を迂回せざるを得なくなるので、他社はその技術を使用できなくなるので、その技術で他社と差別化を図ることができます。

質問者
なるほど・・・
言われてみれば、後回しできない問題ばかりですね。
酒谷弁理士
そうですね。
会社の利益を守るためにも、知財戦略は優先的に作成しましょう。

次に、特許権を取得すべき技術、秘匿化すべき技術について、解説していきましょう。

特許権を取得すべき技術、秘匿化すべき技術

特許権を取得すべき技術、秘匿化すべき技術

質問者
特許権は必ずしも取った方が良いというわけではないということですか?
酒谷弁理士
実は、特許権を取得しない方が戦略として良いという場合もあります。

一般的に、製品の構造については、侵害の立証が容易であるので、特許を取得すべきでしょう。

一方、製品自体からだけでは侵害立証ができないもの、具体的には

  • 製造方法
  • 生産過程の温度や時間等のノウハウ(但し、製造方法も明らかな証拠が入手可能な場合には権利化する意義がある)
  • 分解しても詳細が分からない技術

などについては、侵害立証が難しく、特許権を取得するよりもノウハウとして秘匿化することが好ましいでしょう。

質問者
なるほど・・・
特許を取った方がいいものと秘匿化しておいた方がいいものがあるんですね。
酒谷弁理士

そうです。製造方法や分解しても詳細が分からない技術は、原則、ノウハウとして秘匿化することをおすすめします。

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