新製品を開発する場合、部品単体でも新たな技術を開発することがあります。しかし、部品単体で新しい技術を使用する場合には、知財という部分で注意しなければならない点がいくつかあります。
それは、競合他社の特許権と意匠権を侵害していないかということです。今回は新しい部品を量産する前に、知財面で注意すべき点について詳しく解説していきます。
部品開発時には特許クリアランス調査を!
新たな製品を開発するには、部品の開発も不可欠です。製品の一要素としての部品ですが、小さな部品一つにも非常に多くの時間と開発費用が掛かります。
そして、多くの時間を掛けて開発した新たな部品が、他社の特許を侵害していた場合にはそのままの状態で販売することはできません。ですから、できる限り早い段階で他社の特許権を侵害していないことをクリアランス調査で確認することが必要となります。
クリアランス調査に関しては、他の記事で詳しく解説しているので下記リンクを参考にしてください。
質問者 他社製品の模倣をしてるつもりは無くても構造が似ちゃうことってありますよね? 酒谷弁理士 同様の製品を開発している場合にはあるでしょうね。 質問者 そんな時、他社の特許権を侵害して[…]
クリアランス調査の結果、他社の特許に抵触する可能性がある場合には、量産・販売の前に設計変更を検討すべきです。
なぜなら、部品の量産を開始しようとすると、部品を製造する設備から設計する必要があります。ですから、量産準備や既に量産体制に入っていた場合には大きな損害となるからです。
新しい部品を開発したら特許出願!
自社で開発した部品の特許を取得していれば、その技術について独占的に使用することができます。ですから、新しい部品を開発した場合は、特許出願することが望ましいでしょう。
しかし、特許を取得していない場合でも他社の特許権を侵害していない場合には、新しく開発しら部品を自社で使用することは可能です。
ただし、その場合には、自社と同じ技術を使っている部品を製造販売していても、他社に対して抗議や排除をすることはできません。
先行技術調査
自社で開発した新たな部品に、新たに開発した技術が含まれている場合、特許取得の可能性があります。しかし、確実に特許を取得できるという保証はありません。
その場合、まずは特許が取得できそうかの目途を付けるために先行技術調査をするのがおすすめです。
また、先行技術調査は、今回開発した新たな部品と先行技術の部品との違いを明確にするための調査ともいえます。先行技術調査の結果、類似の先行特許文献が見つかった場合には、その先行特許文献の技術との違いを明確化にしていきますしょう。完全に同じ技術というのはあまりないので、どこかに違いがあるはずです。その違いを見つけて明確にすることが大切です。
違いが明確になれば、新しく開発した部品の特許が取得できる可能性が高まるだけでなく、その違いが他社との大きな差別化要素となり、宣伝・広告時にその違いを前面に打ち出すことができます。ですので、宣伝・広告面においても大切な作業になるので、積極的にとりくみましょう。
先行技術との相違点のバリエーションを考えて最大限広くとれる権利範囲の検討
先行技術調査の結果、開発した新たな技術に新規性がありそうということになれば、実際に特許出願に向けての検討を行うべきです。特に、先行技術との相違点についてバリエーションを考えて、最大限広くとれる権利範囲を検討することが重要になります。
例えば、自動車のトランスミッションに関する部品を新たに開発したという場合を例に考えてみましょう。まずは、開発しているトランスミッションについて、工夫した点を確認しましょう。そして、従来の自動車と比べて今までとどのように違うのかという点を抽出します。
例えばトランスミッションのシャフト構造が先行技術と比べて新しい場合には、このシャフトについて先行技術と比べた本質的な違いを検討する必要があります。
この場合、設計している試作品及び他に取り得る構造について全てが特許権の権利範囲に含まれるように請求項を作成して特許出願すべきです。
トランスミッションのシャフトの技術が新しくシャフトの部品単位で市場で流通する場合(例えば、部品メーカにシャフト部分の製作を依頼している場合など)には、トランスミッションだけでなくシャフト単位での特許権の取得を検討しましょう。
シャフト単位での特許権を取得できれば、このシャフトについては自社が特許の使用許可(ライセンス)を与えた部品メーカだけが製造できます。
また、部品を搭載する最終製品(例えば、トランスミッションを搭載する自動車)についての特許権を取得するかどうか検討する必要があります。部品(ここではトランスミッション)に特許性が認められれば、その部品を備える最終製品(ここでは自動車)についても特許性が認められる可能性が高いです。
一般的に、最終製品を販売するメーカに対して権利行使した方が、特許侵害に係る損害賠償額が大きくなる可能性があります。それは、部品より最終製品の方が単価が高いからです。
また、最終製品を販売するメーカは、部品メーカから部品を調達する場合には、部品が特許侵害であった場合には、当該部品メーカに損害賠償責任があることを定めた特許保証を契約時に結んでいることが多いです。
最終製品が特許発明の技術的範囲に含まれる場合には、特許保証を結んでいたとしても特許侵害をしていることには変わりありません。ですから、差止請求及び損害賠償請求を競合の部品メーカだけでなく最終製品を販売するメーカに対しても行うことが理論上、可能です。
但し、現実には、最終製品を販売するメーカは、部品メーカにとって当該部品の将来の顧客候補であったり、別の商品の顧客であったりするので、権利行使をしにくいという面があります。
意匠クリアランス調査
製品を販売する際には、他社の特許に抵触していないかという点以外にも考えなければならないことがあります。
それは、意匠権です。製品のデザインが他社の意匠権に抵触していないことを確認する必要があります。意匠に関しては見た目である程度の判断ができるので、特許のように複雑ではありません。
しかし、同じ目的の製品を製造している場合、他社の登録意匠に類似してしまう可能性は十分考えられますので、量産するまえに調査を行うことが望ましいです。もし、他社の登録意匠に類似しているデザインであれば、デザイン変更を検討しなければなりません。
意匠権取得の検討
前述した通り、製品を販売する場合には特許権も重要ですが、意匠権も非常に重要です。意匠登録することによって、その意匠での独占販売が可能になります。
意匠登録に関しては、別記事で詳しく解説しています。下記リンクを参考にしてください。
質問者 意匠権という言葉はよく耳にするのですが、具体的にどのようなものを指すのでしょうか? 酒谷弁理士 簡単に言うと、工業的なデザインを保護するための権利ですね。 ニュースなどを見ていると、意匠権の話[…]
ですから、新たに開発した部品や製品のデザインが他社の意匠権に抵触しないようなデザインに決まれば、自社の製品の意匠出願を検討しましょう。
例えば、トランスミッションの場合、トランスミッション全体の意匠について検討します。更に、トランスミッションのシャフトの形態が新しい場合には、トランスミッションのシャフト部分に関しても権利範囲とする部分意匠出願することが可能です。
また、企業戦略として、複数のデザインを関連意匠として意匠出願することも可能です。
最終的なデザイン候補が複数ある場合には、それらのデザインに関しても意匠出願を検討しましょう。最終的なデザインが途中で他の候補に変更になった場合でも、意匠権で抑えることができます。
その際、関連意匠制度を利用して、デザイン変更後のデザインで意匠出願をして意匠権を取得することによって、意匠権で抑えている権利範囲全体を拡大することができるという点も大きなメリットです。他社が類似のデザインを採用することが難しくなるので、是非検討してください。