今回は食品分野に関する知財について取り上げましょう。食品分野では用途発明というものがあります。用途発明とはどのようなものでしょうか。また、それによりどのような特許戦略ができるのかについても詳しく解説します。
食品用途特許について
平成28年4月1日に食品関係の特許に関する審査基準が改定されました。改訂された内容としては、用途発明に関連するものです。用途発明については、それまで化学・医薬品のみ認められていたのですが、この改定によって食品の分野でも出願が可能になりました。
食品の場合の用途発明は、食品組成物を数値や機能で限定したものになります。その食品自体が公知である場合には、用途が違う場合でも新規性がないという認識だったのですが、用途が新規であれば特許権を取得できる可能性があるというものです。
例えば、ある食品組成分があった場合、その数値の割合などを限定することで、新たな用途が見付かったという場合などが該当します。
近年、機能性食品などが非常に増えたように、食品の用途発明の特許(食品用途特許という)の登録は増加傾向です。また、異業種企業の参入や機能性表示食品市場の拡大によって、食品用途特許の出願件数も増加しています。
上記のように、以前は食品業界での特許取得は難しかったこともあり、特許を取得することよりも営業秘密として管理するというのが一般的でした。製造方法や食品組成分などを秘匿化することで、外部から解明されにくいというメリットがあったからです。
逆に、特許を取得することで自社の技術が公開されることがデメリットと考えられてきました。しかし、近年の食品業界では異業種メーカーの参入が著しく増加していることもあり、企業戦略は特許取得の方向へ転換されました。
更に、機能性表示食品制度も開始されたこともあり、特許で自社製品を保護することが注目されるようになりました。
食品の用途特許の審査基準
特許・実用新案の審査基準とは
まず最初に知っておかなければならないのは、特許・実用新案審査基準(以下、審査基準という)がどういったものなのかという点です。
審査基準を簡単にまとめると、以下のようになります。
- 審査官が特許法等の法律を特許出願の審査において適用するための指針
- 審査の公平性や透明性を担保するためのもの
- 出願人等の制度ユーザーが特許庁における審査実務の理解を深めるためにも広く利用されてきた
また、平成17年には審査官が審査の際に考慮すべき留意事項や手続的事項をまとめた特許・実用新案審査ハンドブック(以下、審査ハンドブックという)も公表されて、幅広く活用されています。
では、続いて用途発明の審査基準について解説しましょう。
用途発明の審査基準
一般的な用途発明の審査基準に関してはどうでしょうか。特許庁の「特許・実用新案審査基準」によると以下のように定義がなされています。
審査基準第Ⅲ部第2 章第4 節 3.1.2
「用途発明とは、(ⅰ)ある物の未知の属性を発見し、(ⅱ)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明をいう。」
平成28 年4 月1日の審査基準の改定により、審査基準において、食品分野の用途発明と言える場合として、二日酔い防止用食品組成物の例が以下のように追記されました。
審査基準第Ⅲ部第2章第4節 3.1.2(1)
[請求項2] 前記食品組成物が発酵乳製品である、請求項1に記載の二日酔い防止用食品組成物。 [請求項3] 前記発酵乳製品がヨーグルトである、請求項2 に記載の二日酔い防止用食品組成物。
例2:
[請求項1] 成分Aを有効成分とする二日酔い防止用食品組成物。(説明)
「成分Aを有効成分とする二日酔い防止用食品組成物」と、引用発明である「成分Aを含有する食品組成物」とにおいて、両者の食品組成物が「二日酔い防止用」という用途限定以外の点で相違しないとしても、審査官は、以下の(i) 及び(ii)の両方を満たすときには、「二日酔い防止用」という用途限定も含め、請求項に係る発明を認定する(したがって、両者は異なる発明と認定される。)。この用途限定が、「食品組成物」を特定するための意味を有するといえるからである。
- 「二日酔い防止用」という用途が、成分Aがアルコールの代謝を促進するという未知の属性を発見したことにより見いだされたものであるとき。
- その属性により見いだされた用途が、「成分Aを含有する食品組成物」について従来知られている用途とは異なる新たなものであるとき。請求項に係る発明の認定についてのこの考え方は、食品組成物の下位概念である発酵乳製品やヨーグルトにも同様に適用される。
つまり、要約すると以下のようになります。
食品分野の特許戦略
食品分野でも用途発明が特許取得できるようになり、一つの例として以下のような事例が挙げられます。
- 原料メーカが特許取得により自社原料をブランディング
- 受託メーカが自社独自の製造工程を特許で権利化
どちらの事例も、特許で保護された製品を開発することで実現が可能となります。特許で保護されることで、競合他社との差別化が可能となり、その製品に関しては長期間独占することも可能です。
その為には、競合会社の用途発明の特許取得状況を監視(ウォッチング)し、広い視点から、特許で保護される自社製品の領域を拡大させる必要があります。
まずは用途発明の特許について、特許クリアランス調査を行い、競合会社の用途発明の特許権に抵触しないようして商品の法的安定性を確保しましょう。クリアランス調査については、別記事にて詳しく解説していますので、下記リンクを参考にしてください。
質問者 他社製品の模倣をしてるつもりは無くても構造が似ちゃうことってありますよね? 酒谷弁理士 同様の製品を開発している場合にはあるでしょうね。 質問者 そんな時、他社の特許権を侵害して[…]