ニュースなどを見ていると、意匠権の話をよく耳にしますが、実際に意匠制度というものについては案外知らない人も多いようです。そこで今回は意匠登録の要件や意匠権のメリットなどについて詳しく解説します。
意匠権とは
意匠制度
意匠制度は意匠法で規定された産業財産権で、工業的なデザインを保護するものです。デザインに新規性と創作性があることが条件で、美感を起こさせる外観を有する物品の形状・模様・色彩のデザインの創作に対して意匠権という独占権が与えられます。
では、意匠権にはどのような効力があるのでしょうか。
意匠権の効力
意匠法23条によると、「意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠を実施する権利を独占することができる」と定められています。特許権とよく比較されますが、意匠権の場合は類似範囲まで効力が及ぶというところが特許権とは大きく異なる点です。
類似範囲という点では商標権とよく似ていますが、専用権(独占して使用できる権利)という点において異なっています。意匠権の場合は専用権が類似範囲にまで及ぶということで、範囲が広いと言えるでしょう。
意匠権者の権利については特許権者と同様です。ですから、意匠法37条1項では意匠権の侵害があった場合には差し止めや予防の請求ができるものと明記されています。
更に、意匠法37条2項では以下が認められています。
- 侵害の行為を組成した物の廃棄
- 侵害の行為に供した設備の除却
- その他の侵害の予防に必要な行為の請求
また、民放では以下が認められています。
- 民法709 条:不法行為による損害賠償
- 民法703 条:不当利得の返還
意匠の登録要件
特許出願と違い、意匠の場合は出願するだけで審査が開始されます。では、どのような点を審査されるのでしょうか。審査の要件としては次の9点です。
- 工業上利用性
- 新規性
- 創作非容易性
- 先願意匠の一部と同一・類似の意匠でないこと
- 公序良俗違反でないもの
- 他人の業務にかかる物品と混同しないこと
- 物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからならないもの
- 最先の出願であること
- 1つの意匠につき1つの出願とすること
では、それぞれについてもう少し詳しく解説していきましょう。
工業上利用性
意匠法3条1項の柱書によると、意匠登録できるのは工業上利用することができる意匠であることが要件の一つです。工業上利用が可能ということは、量産できるものでなければなりません。
もし、量産できないデザインであれば、美術品のデザインという位置付けとなります。美術品のデザインの場合は意匠ではなく、著作物という扱いです。ですから、意匠権ではなく著作権で保護されることになるので、その違いに注意してください。
新規性
意匠法3条1項各号に書かれているのが、意匠の新規性です。つまり、意匠出願前には知られていないデザインでなければなりません。
ですから、下記に該当する意匠については意匠登録ができないことになります。
- 公知となっている意匠
- 刊行物に記載された意匠
- 上記に類似する意匠
創作非容易性
意匠法3条2項では、創作非容易性を有するものでなければならないことと明記されています。つまり、簡単に創作できない意匠です。
簡単に創作できる基準としては以下の通りです。
- 既に知られた形状や模様の結合
- 既に知られた色彩の結合
- または上記の寄せ集め
- 構成比率の変更
- 連続する単位の数の増減
先願意匠の一部と同一・類似の意匠でないこと
意匠法3条の2には、「先願意匠の一部と同一・類似の意匠でないこと」と明記されています。
つまり、先願の意匠の一部がそのまま後願意匠として登録出願された場合には、先願意匠の一部と同一・類似ということになります。ですから、後願意匠が新しい意匠の創作とは認められません。よって、意匠登録はできないということになります。
公序良俗違反でないもの
意匠法5条1号には、公序良俗違反でないものでなければならないと明記されています。
公序良俗違反とは、例えば、暴利行為、倫理に反する行為、正義に反する行為、人権を侵害する行為などを指します。
ですから、元首の像、国旗や皇室の紋章などのように、すでに知られたものや人の道徳観を不当に刺激し、羞恥、嫌悪の念をおこさせる意匠については意匠登録を受けることができません。
他人の業務にかかる物品と混同しないこと
意匠法5条2号によると、他人の業務にかかる物品と混同しないことと明記されています。
例えば、下記のような意匠については意匠登録を受けることができません。
- 他人の著名な商標
- サービスマーク等
物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからならないもの
意匠法5条3号には物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなるものは意匠登録を受けることができないと明記されています。
例えば、コネクタ端子のピンの形状などです。つまり、デザインではなく機能そのものを保護することを避けるのが目的となります。これは意匠法の趣旨に反するものです。
最先の出願であること
意匠法9条1項により、二人以上の者が同一または類似の意匠を出願した場合は先に出願した者のみが意匠登録を受けることができます。
ただし、同日に複数の同一または類似の意匠出願があった場合は願人に対して協議命令が出されることになります。これは意匠法9条5項に定められており、協議によって定めた一人のみが意匠登録を受けることができるというものです。
協議の結果以下のような場合には意匠法9条2項後段により、いずれの出願人も意匠登録を受けることができません。
- 協議できない場合
- 協議がまとまらない場合
1つの意匠につき1つの出願とすること
意匠法7条により、1つの意匠につき1つの出願とすることが決められています。ですから、複数の意匠をまとめて1つの出願とすることはできません。
なお、意匠法8条により、組物の意匠の場合も複数の物品で1つの意匠なければなりません。
では続いて意匠登録をするメリットについて考えてみましょう。
意匠権を取る4つのメリット
意匠権には、以下の4つのメリットがあります。
- 他社の模倣を排除
- 宣伝・広告効果のアップ
- 資金調達に有利
- 事業譲渡のときに評価向上
詳しく見ていきましょう。
他社の模倣を排除~参入障壁の構築~
意匠権は出願日から25年間有効で、独占的に実施する権利が得られるというものです。つまり、意匠登録された意匠と同一または類似の範囲において保護されることになるので、参入障壁が高くなると言えます。
具体的には、その意匠と同一または類似の範囲で侵害された場合に以下のことが可能です。
- 侵害者の行為を差し止め
- 直近3年間の損害賠償
- 直近10年間の不当利得について返還請求
ですから、仮に登録意匠を真似されるようなことがあっても、真似した製品やサービスの販売をさしどめることができます。更に、過去に遡って損害賠償や不当利得返還請求もできます。
ですから、独自のデザインの製品を新たに制作した場合には、リリース前に意匠出願をすることをお勧めします。
宣伝・広告効果のアップ
新しい製品というのはそれだけで宣伝・広告効果があるものです。しかし、そこに意匠権取得が加わることで、更に効果を発揮することになります。
意匠権を取得することで、デザインの独自性や新規性をアピールすることができるということは大きなメリットと言えるでしょう。
資金調達に有利
ベンチャーキャピタルなどの投資家からの資金調達を望む場合には、意匠登録が大いに役に立つことになります。
意匠登録をすることで、製品デザインの独自性をアピールできるでしょう。これは、ベンチャーキャピタルなどの投資家から資金を提供するか否かの判断基準の一つとなります。
また、他社(特に大手企業)が簡単に模倣できない製品を独占的に販売できるので、価格競争に陥るリスクをおさえることができます。
事業譲渡のときに評価向上
意匠権を取得している事業ということは、非常に独自性があるということになります。更に、意匠権を取得しているということで、そのデザインを独占できるので利益を確保しやすいということも言えます。
ですから、事業として高い評価を得られ、事業を譲渡の場合にも非常に有利です。