一生懸命開発した自社製品の人気が出てくると、他社の類似製品が出回る可能性があります。こんな場合には法的手続きを取って市場から排除したいところです。
そこで今回は他社類似製品に対する権利行使の手順や様々な法的手段のメリット・デメリットなどについて詳しく解説しました。是非最後までご覧ください。
他社類似製品に対する権利行使の準備
人気が出てきたら真似をされるか叩かれるかのどちらかでしょう。それは自社製品においても同じです。これでは人気が出たと手放しで喜ぶわけにはいきません。何とかして市場から排除したいところです。
模倣品を取り締まるには、次の手順で確認する必要があります。
- 権利行使可能な権利の特定
- 相手方の製品の証拠収集
- 侵害該当性の評価
- 権利の有効性の評価
- 相手方の知的財産権の確認
では、順に解説していきましょう。
権利行使可能な権利の特定
他社類似品を発見した場合には、自社の知的財産権と比較して権利行使ができるか検討する必要があります。
例えば、次のような場合について考えてみましょう。
- 構造・機能などについて特許権もしくは実用新案権を取得している
- 外観の形態について意匠権を取得している
- 商品名もしくは製品ロゴについて商標権を取得している
上記のような場合には、他社類似品の構造・機能が特許権もしくは実用新案権に規定している構造・機能と同じもしくは類似していれば、その特許権もしくは実用新案権が候補になります。
また他社類似品の外観が意匠権の意匠と同じもしくは類似していれば意匠権が候補となります。また自社製品の販売開始から3年以内であれば、意匠権侵害に加えて、不正競争防止法に基づく形態模倣行為に該当する可能性があります。
また、他社類似品の商標が、自社の商標権に係る商標と同一もしくは類似しており、且つ他社類似品の商品・サービスが自社の商標権の指定商品・指定役務と同一もしくは類似であるならば、その商標権が候補になります。更に自社の商品名が商品もしくは営業を表示するものとして周知もしく著名となっていれば、不正競争防止法に基づく差止請求を請求できる可能性があります。
いずれの法律によっても差止請求及び損害賠償請求が可能です。ですから、下記の2点を十分に検討する必要があります。
- どの権利が権利行使可能か
- どの権利を行使するのが一番有効であるか
相手方の製品の証拠収集
権利行使をするにあたって必要なのが「侵害の立証」となります。侵害を立証するには、相手方の製品の証拠収集をしなければなりません。
つまり、次のような証拠が必要になります。
- 相手方の製品の仕様についての証拠
- 相手方の製品の形態についての証拠
製品が入手できるのであれば、製品を入手するのが良いでしょう。また、製品が入手できなかったとしても、以下のようなものがあれば証拠となります。
- 製品のカタログ
- 製品のデータシート
- 製品写真
- 展示会の資料など
また、相手方の販売価格やおおよその販売数量といった情報も収集しましょう。
相手方の販売価格やおおよその販売数量が分かれば、原価は自社製品から類推できます。つまり、相手方の1個あたりの限界利益も類推できることになります。
相手方の販売価格やおおよその販売数量をなぜ調べるかというと、損害賠償額がどのくらいになるかということの目星をつけたいからです。相手方の商品の限界利益が推測できれば、損害賠償の計算が可能になります。
損害賠償額については、相手方の利益(限界利益に販売数量をかけた額)として推定(特許法102 条2項)できるからです。
ここで問題となるのは、推定した損害賠償額が思ったよりも少ないという場合です。損害賠償額が少ない場合、訴訟に係る弁護士・弁理士費用に鑑みると、金銭収支がマイナスになる可能性があります。また、そもそも権利行使するほどでもないという判断になるかもしれません。
但し、金銭収支がマイナスになっても、市場から排除する為に差止を請求するという判断もありえます。その辺りは状況に合わせて検討するとよいでしょう。
侵害該当性の評価
相手方の製品の証拠が集まれば、それらの証拠を元に実際に自社製品の知的財産権の侵害があるか否かを評価します。
特許・実用新案の場合、請求項に含まれる構成要件毎にその構成要件を他社類似品が満たしているか否かを評価することになります。この評価によく使用されるのが「クレームチャート」です。
クレームチャートとは、以下の項目をわかりやすく表示して評価するための表のことです。
- 特許の請求項に含まれる構成要件
- 当該構成要件に対応する他社類似品の構成
- 当該他社類似品の構成が当該構成要件を満たすか否か
評価を分類すると以下のようになります。
- 侵害:他社類似品が全ての構成要件を満たす場合
- 非侵害:他社類似品が1つでも構成要件を満たさない場合
- 均等侵害:他社類似品が請求項の発明と均等の範囲にある場合
- 間接侵害:侵害品の生産にのみ用いる物などの間接的に権利を侵害する場合
注意点としては、この評価が客観的な評価であることが好ましいという点です。自社内で評価すると社内事情等によってどうしてもバイアスがかかってしまうので、外部の弁理士、弁護士から客観的な評価をしてもらった方がよいでしょう。
権利の有効性の評価
続いて権利の有効性について調査しましょう。
知的財産権を権利行使したが、相手方の無効の抗弁が認められて権利行使ができないという場合も考えられます。更に無効審判によって権利が無効になってしまった場合には、かえって不利益になってしまいます。
特許、実用新案、意匠権もしくは商標権の場合には、自社が権利者であり、且つ現在も存続している権利であるかを調査しましょう。
また特許、実用新案もしくは意匠権の場合には、改めて
- 新規性がある
- 進歩性がある
ということを再確認しておくことをおすすめします。
また、新規性、進歩性、記載不備等の無効理由があり得る場合には、残念ながら反論だけで有効性が認められない場合もあります。
そのような場合には、権利行使をする前に訂正審判をすることをおすすめします。訂正審判では、特許請求の範囲を無効理由がない状態になるように訂正することを検討しましょう。但し、他社類似品が権利範囲に収まるように細心の注意を払う必要があります。
相手方の知的財産権の確認
次に、相手方の特許・実用新案権、意匠権、商標権の数及びその内容について確認します。相手方に対して権利行使したところ、逆に相手から別の侵害訴訟を提起されて権利行使されてしまうということがありえます。
具体的に他社類似品の販売を止めて、3000万円の損害賠償金を勝ち取った場合として考えてみましょう。そのまま相手方が大人しく支払えば何の問題もありません。
しかし、逆に相手から別の侵害に対して権利行使されてしまった場合は損をすることにもなりかねません。例えば、自社の主力製品の販売が止められ、更に3億円の損害賠償金を支払うことになれば目も当てられない状況です。
このようなことにならないためにも、相手方の権利の数及び権利の内容を確認する必要があります。そして、自社が相手方の権利に抵触していないことを確認しましょう。
特に、次のような場合は要注意です。
- 自社の主力製品が相手方の権利に1つでも抵触しているような場合
- 相手方の特許権の数が自社の特許権の数に比べて多い場合
一般的にそのような相手に権利行使するのは危険だと言えます。ですから、権利行使する必要があるか否かを再度検討する必要があるでしょう。
権利行使先として好ましい相手は、次のような場合です。
- 特許などの権利が自社に比べて少ない
- 相手方の権利のいずれにも抵触している可能性が低い
また、自社が権利行使する特許が1件だけという場合には、無効論で権利が無効という判断で終わってしまう可能性があります。ですから、少なくとも2、3件、理想的には5件以上の特許で権利行使ができるといいでしょう。
他社類似製品に対する権利行使の手続
相手方の調査をして相手方が脅威となる権利を保有していない場合には、いよいよ権利行使のための手続きに移っていきましょう。警告書を準備して送付するか、訴状を準備していきなり提訴するかということになりますが、通常は警告書を送って相手の反応をみることが一般的です。
また、相手方の製品の差止までは求めない場合には、金銭的な解決を目指してライセンス交渉をしましょう。ライセンス交渉の場合は、訴訟をするよりも費用が抑えられるとともに解決までの時間を短縮できる可能性ができます。但し、最近は、訴訟を提起されて始めて真剣にライセンス交渉に対応する会社もあるので、ライセンス交渉で、相手方がのらりくらりとかわして時間をかけてくるような場合には、訴訟提起も考えましょう。
では、次の3点について詳しく解説しましょう。
- 警告書の準備
- ライセンス交渉
- 法的手続き
警告書の準備
特許・実用新案の警告書を準備する場合、クレームチャートを用いて類似製品が、自社の権利をどのように侵害しているのかを明確に説明することが必要です。この説明が明確であり、相手方に伝わることが重要です。
説明が曖昧な場合、相手方から質問を受けて時間を浪費したり、こちらの主張が弱いと見なされてまともに取り合ってもらえなかったりするリスクがあります。
また、警告書で使用する特許権は2、3件、理想的には5件以上の特許で警告書を準備することが望ましいでしょう。特許権が1件だけの場合、その特許権が無効であるという相手方から反論が想定されます。
最悪の場合には相手方から先に無効審判を請求されて特許権が無効となり無駄な時間をかけただけで交渉が終わってしまう可能性がありえます。
ですから、警告書で使用する特許権はなるべく多い方が良いと言えます。そうすると、相手方に全ての特許権について非侵害もしくは無効にするのは困難という認識が生まれ、相手方が話し合いの土俵に上がってくる可能性を高めることができます。
また、警告書の中で、相手方に求める対応を明示しなければなりません。具体的には次のようなものになります。
- 話し合いを求める
- 他社類似品の即時販売中止を求める
- ライセンス料(もしくは損害賠償)を求める
- 即時販売中止・損害賠償の両方を求める
ライセンス交渉
最も平和的な交渉方法がライセンス契約を締結することです。一般的に、警告書を送付した後にライセンス交渉が行われることになります。
ライセンス交渉では、侵害該当性、権利の有効性について互いに議論することになります。
訴訟費用及び訴訟に係る人的コストを避けるためのなどの理由で、相手方が和解に応じ、結果としてライセンス契約を締結できる場合もあります。
法的手続き
ライセンス交渉がまとまらない場合には、法的手続きを検討する必要があります。法的手続きとしては、次のようなものになります。
- 通常訴訟
- 仮処分申立
- 税関差止
近年では、ライセンス交渉の場に相手を引きずりこむために法的手続きをするというケースが増えています。
各法的手続きのメリットとデメリット
通常訴訟(本案訴訟)
通常訴訟(本案訴訟)は他社類似品の販売等の差し止め及び/または損害賠償を請求することができます。
- メリット
仮処分と比べて損害賠償を請求でき、文章提出命令等で相手方から資料を提出させることができること。訴訟継続中に訂正審判もしくは訂正請求によって請求項を訂正した場合には、訂正後の請求項に基づいて侵害を主張できること。 - デメリット
仮処分に比べて申立費用が高いことや、第一審で判決が出ても直ちに執行することはできず、上級審まで行って判決が確定するまで執行ができないこと。
仮処分申立
仮処分申立は保全の必要性が要求されます。ですから、権利者もしくは実施権者が権利対象の製品・サービス(例えば特許製品)を実施しているか、実施予定である必要があります。
- メリット
通常訴訟と比べて申立費用が極めて低額(貼付印紙額2000 円)であり、仮処分命令が告知されれば、直ちに執行可能であり、上級審で争っている間であってもその効果が妨げられない。 - デメリット
損害賠償請求はできず、仮処分命令を得るには比較的多額の担保を積む必要がある。疎明資料が即時取り調べ可能な証拠に限定されること、暫定的な措置であって一定期間内に通常訴訟を行わなければ債務者の申立により決定が取り消されること、仮処分命令が執行された後、通常訴訟で逆の結論が出た場合には債務者から損害賠償を受けるおそれがあること。請求項を訂正をする場合には、再度、訂正後に申立が必要なこと。
税関差止
税関差止は他社類似品が輸入品もしくは輸出品である場合に、税関に対して水際差し止めを請求することができます。
- メリット
裁判所により侵害の結論が出る前に、迅速に輸出入を止められる。担保として供託すべき金銭が、仮処分で供託すべき担保の額より、一般的に低額である。 - デメリット
仮に税関で侵害判断が得られたとしても、後に裁判所において非侵害の判断が出た場合には、相手から逆に損害賠償請求を受けるおそれがある。
典型的には、以下のようなものを取り締まることができます。一見して明白な侵害に効果がある手続きです。
- ブランド品などのデッドコピー品
- 意匠権侵害品
- 商標権侵害品
- 著作権侵害品(例えばキャラクター商品)