更に言うと、アプリの場合、サーバ(バックエンド)の処理だけでなく、アプリのプログラムやブラウザ(フロントエンド)における処理などについても、特許を習得しておいた方がいいですね!
今回の記事は、アプリ開発における特許について次の3つの観点から見ていきましょう。
- アプリの特許権による保護
- 望ましい権利の取得態様
- アプリの特許戦略
新しくアプリを開発・リリースする場合に、特許以外で注意する点として意匠、商標についての注意点を別記事でまとめますので、そちらも参考にしてください。
質問者 新たなアプリを開発予定なんですけど…特許以外の、例えば知的財産の面で注意することはありますか? 酒谷弁理士 新しいサービスを展開する場合、 商標出願 意匠登録出願 など[…]
アプリの特許権による保護
アプリの特許に関してですが、先ほども書いたように、特許は取得しておいた方がいいです。というのも、日本の特許法においては、プログラムを保護対象としているからなんです。
そのあたりについて、
- アプリの特許による保護
- ビジネスモデル特許による保護
- ビジネスモデル特許の具体例
の3つの切り口からわかりやすく解説しましょう。
アプリの特許による保護
まず最初に大前提として、日本の特許法は、プログラムを保護対象としています。ですから、スマートフォンにインストールされるアプリケーション(いわゆるアプリ)は、プログラムに該当するのでアプリも特許の保護対象となっています。
ここでアプリを
- アップルストア
- グーグルプレイ
等を仲介として配信・提供する行為は、プログラムの電気通信回線を介した提供に該当しますので、特許法上の実施に該当します。
このため、自社のアプリが特許でカバーされていれば、そのアプリを模倣した第三者のアプリを配信する者に対して、権利行使(例えば、差止請求や損害賠償請求)ができる可能性があります。
その観点から、アプリに含まれる機能について、
- 新規性があり
- 進歩性が見込めるのであれば
特許出願することが望ましいです。
逆に、自社のアプリが、他社のプログラム特許に抵触する可能性もあります。そういったことがないように、アプリのリリース前には、他社の特許を侵害していないかの調査(クリアランス調査またはFTO調査)をすることが望ましいです。
アプリを開発・リリースする前は、一度、特許出願を検討するのがよさそうですね。
ビジネスモデル特許による保護
次に、ビジネスモデルにおける特許ですが…これはビジネスモデル自体が特許の対象になるわけではありません。これは少々難しい話になるので、詳しく説明しますね。
ビジネスモデル特許とは、ビジネス方法において用いられる
- コンピュータシステム
- コンピュータプログラム
に関する特許のことです。具体的に言うと、ビジネス上の問題、不都合などをコンピュータを用いて解決した発明に付与される特許です。ですから、ビジネスモデル自体に特許が付与されるのではなく、あくまでもビジネスモデルを実現する際に利用される
- コンピュータシステム
- コンピュータプログラム
が、特許の対象になります。
ですから、開発するアプリまたはコンピュータシステムが、ビジネス上の問題、不都合などを解決する場合、ビジネスモデル関連発明に該当します。
このビジネスモデル特許の考え方は国によって違い、
- 日本
- 米国
- 韓国
においては、特許による保護対象になりま す。
一方、中国、欧州では、技術的特徴を含まないビジネスモデルは特許の保護対象となりませんので、通常のビジネスモデル発明は特許の保護対象ではありません。但し、中国でも、技術的特徴を含むビジネスモデル発明は保護対象外となるわけでは ありません。
近年、ビジネスモデル特許の出願が増加傾向にあります(図1)。
また、特許査定率が右肩上がりで、2013年時点で約70%と高くなっています(図 2)。
ここで、特許査定率=特許査定件数/(特許査定件数+拒絶査定件数+一次審査 通知後取下・放棄件数)です。
ビジネスモデル特許の具体例
Amazonは、ワンクリックで注文する方法について米国で特許を取得していました。このワンクリック特許(US5960411)の請求項1の和訳は以下の通りです。
クライアントシステムの制御下で、商品を識別する情報を表示するステップと、
単一アクションのみが実行されていることに応答して、商品の購入者の識別子と 共に商品を注文する要求をサーバシステムに送信するステップと、
サーバシステムの単一アクション注文要素の制御下で、リクエストを受信するス テップと、
受信した要求内の識別子によって識別される購入者に関して以前に記憶された追加情報を検索するステップと、
取得された追加情報を使用して、受信された要求内の識別子によって識別される 購入者のために要求された商品を購入するための注文を生成するステップと、
生成された注文を履行して商品の購入を完了し、これにより、商品はショッピング カートの注文モデルを使用せずに注文されるステップと、 を有する。
「単一アクションのみが実行されていることに応答して」、事前に保存されたクレジットカードなどの追加情報を用いて、「商品を注文する要求」を送信することにより、購入が完了するという内容は、ワンクリックで商品を購入する際の最小限の処理であり、回避することは困難です。その裏づけとして、アップルコンピュータは、この特許のライセンスをAmazonから受けていました。
このように顧客に対する訴求力がある機能を実現する特許は、顧客獲得に寄与するという観点から価値があります。
例えば、自社の新しいシステムに実装されるA 〜 C機能のうち、
- B機能
- C機能
をカバーする各特許を取得したとします。そうすると、他社は、自社の特許権に抵触するB及びC機能を実装できず機能Aのみしか実装することができなくなります。この場合、B、C 機能の利便性が高いものであり顧客に対する訴求力があれば、顧客は自社サービスを選択します。
他社との差別化もできるので、顧客訴求力がある機能については他社にさきがけて特許出願しましょう。
望ましい権利の取得態様
自己の特許権を侵害するアプリに対して権利行使するには、アプリ内のプログラムまたは端末について権利を取得することが好ましいです。
アプリ内のプログラムについて特許権を取得していれば、プログラムの作成及び配信行為が当該特許権の直接侵害になるからです。
また、端末について特許権を取得しておけば、当該アプリがプリインストールされている端末の製造及び販売行為が当該特許権の直接侵害になるからです。
また、新しい機能を含む端末について特許権を取得しておけば、その端末の生産のみに用いるプログラムを配信する行為が、当該端末に係る特許権の間接侵害になる可能性があります(特許法101条1号)し、その端末の生産に用いるプログラムであってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその端末がその発明の実施に用いられることを知りながら、販売する行為が当該端末に係る特許権の間接侵害になる可能性があります(特許法101条2号)。
サーバに特徴があるものは、サーバを含む情報処置装置単体について特許権を取得するのではなく、いわゆるクラウドで複数のサーバが介在して処理する態様について権利を押さえるために、1つまたは複数のコンピュータで構成されているシステムとして特許権を取得することが好ましいです。
原則的に、特許権は属地主義の原則に基づき、国毎に発生し、当該国領域内でのみその効力が認められています。このような属地主義の原則から、現在の日本の特許法では、 外国での特許発明の実施に対して権利行使をすることができません。
現状では、米国と違って、日本では、日本特許の権利範囲に含まれるサーバを外国に設置して当該日本特許の権利侵害から逃れるという態様について権利行使を可能とする裁判例はいまだありません。
よって現状では、仮に、
- 他社のサーバが、自社の情報処理装置に係る特許権の権利範囲に含まれる
- 他社のサーバが外国にある
といったケースにおいては、サーバに対しては権利行使することができない可能性が高いです。
とはいえ、今後の裁判例によっ ては、サーバが外国にあっても日本国内向けにサービスを行っている場合には、特許権の権利行使が認められる可能性があります。それを考えると、サーバの処理についても、営業・宣伝でその機能を売りにしていくなら、特許を取っておくことで顧客に対する訴求力を向上させられるでしょう。
また現状においてはその対策として、
- サーバの処理内容に言及せず端末からサーバへ送信する処理と、
- 端末がサーバから受信する処理
を記載することで、間接的にサーバが送信する情報およびサーバが受信する情報を記載することによって特徴を出すことによって特許権を取得できる可能性があります。
現状では、サーバー側ではなく、国内で必ず使われる端末側について、より優先的に特許を取得することが好ましいでしょう(もちろん、サーバ側の特許も重要です)。
とはいえ、サーバが外国にあっても日本国内向けにサービスを行っている場合には、権利行使が認められる可能性があります。
また、対策が難しいと感じるかもしれませんが、サーバーが海外にあったとしても、国内における
- 端末からサーバへ送信する処理
- 端末がサーバから受信する情報
などの特許を取得しておくことで、ある程度の対策を立てることができます。
アプリの特許戦略
アプリについて開発しているのであれば、アプリ側のプログラム、及び端末について優先的に特許権を取得することをお勧めします。
一方、アプリを開発しているが、 アプリ自体については特徴がなく、そのサーバ側の処理に特徴がある場合には、サー バを含む情報処理システムについて権利取得するとよいでしょう。
また、 仮に他社のサーバが外国に置かれた場合にはサーバに対しては権利行使できない可能性が高いです。ですから、アプリの作成及び配信について権利行使ができるように、
- 端末
- 端末側のプログラム
- 端末側の方法
といった国内で管理できる部分について特許権を取得しておくとよいでしょう。