オープン・クローズ戦略については様々な例を用いて解説してきましたが、サービスという点ではどうでしょうか。今回はサービスを対象とする標準化を用いたオープン・クローズ戦略ということについて、JIS規格の改正なども踏まえた上で事例を用いて詳しく解説しましょう。
JIS法の改正について
JIS 対象のデータ・サービス等への拡大
JIS(日本工業規格)と言えば、鉱工業品等の標準化に関する企画です。ですから、これまではJISによってデータ・サービス等は標準化することができませんでした。
しかし、2019年7月1日の工業標準化法(JIS 法)の改正によって、標準化の対象が「鉱工業品等に限らずデータ・サービス、経営管理等」に拡大されました。
これに伴い以下のように名称が改められました。(図1)
- 日本工業規格(JIS)→日本産業規格(JIS)
- 法律名:産業標準化法
出典:経済産業省「JIS法改正」をもとに作成
JIS制定の民間主導による迅速化
日本工業標準調査会(JISC)を経ずに規格承認するルートが新設されました。具体的な解説は図2の通りです。
まず、JIS 制定手続きについて、専門知識等を有する民間機関を認定します。そして、その機関が作成したJIS案について、審議会の審議を経ずに制定するスキームを追加するという流れです。
出典:経済産業省「JIS法改正」をもとに作成
この新設ルートにより、「新市場創造型標準化制度」を利用した場合よりも更に国内標準化までの期間を短縮できる可能性があります。
サービス標準の具体例
ヤマト運輸の「小口保冷配送サービス」の標準化
運輸業界では、市場が拡大されてきました。現在ではアジアを中心に、世界中で小口保冷配送サービスの需要が急激に高まっています。
日本においても、ヤマト運輸の「クール宅急便」をはじめ、宅配事業者の小口保冷配送サービスは広く認知されるようになっています。今では誰もが安心して利用できるサービスと言えるでしょう。
しかし、東アジアやASEANでは市場が立ち上がったばかりで、温度管理などの品質が不十分という現状がありました。
コールドチェーンは豊かな社会の実現には欠かせないインフラと言えます。ですから、一定の水準が保たれなければ、将来的な市場の成長を妨げることになるでしょう。
そこで、ヤマト運輸が取り組んだのが小口保冷配送市場における客観的な「基準」でした。英国規格協会(BSI)の日本法人であるBSIグループジャパンと連携し国際規格「PAS 1018」の認証を取得することになったのです。
また、平成30年1月23日には、国際標準化機構(ISO)において、日本からの提案による「小口保冷配送サービス」に関する国際規格を開発する新たなプロジェクト委員会の設立が承認されました。
ですから、今後は日本が主導して当該国際規格の発行を目指すことが発表されています。
これまではPAS 規格策定からISO 化という標準化の流れがありました。PAS 規格からISO 化された規格がこれまでに多く存在するからです。これは、PAS規格が国際的に広く活用された実績をもとに、BSIが国際規格とすることをISOに提案した結果でしょう。
PASは「Publicly Available Specification」の略であり、日本語では「公開仕様書」を表します。この仕様書は「一般に公開されて誰でも使用できる規格」であることを意味します。
これからのサービス標準の流れ
各規格の影響力・普及力を比較すると、図3のようになります。
図3より、PASよりも国家規格であるJISの方が影響力・普及力が高いことがわかります。また、これらのことを踏まえると、JISの認定期間が短縮されたこともあり、図4のように今後はJIS 策定からISO 策定に標準化の流れが変わっていくでしょう。
JISによるサービスの標準化とビジネスモデル特許による独占
JISによってサービスを標準化しておき、次のどちらかの特許を取得しておくことが考えてみましょう。
- サービスを実装するときに必須になる特許(実施必須特許)
- サービスを実装する場合にユーザの利便性が向上する特許
例えば、フィンテック分野におけるブロックチェーンを用いた仮想通貨の取引についてのサービスをJISで標準化します。
その際、必須となるビジネスモデル特許またはサービスを実装する場合にユーザの利便性が向上するビジネスもモデル特許を取得するという戦略が考えられます。
コンピュータ・ソフトウエアを使ったビジネス方法に係る発明に与えられる特許